□vs 天然小悪魔!
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都内のとある大きな公園。
暖かな日だまりの下、愛犬を連れて散歩を楽しむ老夫婦、芝生の上ではバドミントンをしている親子、多くの人がのんびりとした休日を過ごしていた。

そして噴水近くのベンチに座る男女の二人組。
彼らもまた、穏やかな陽気の中、二人の時間を楽しんでいた。


「だいぶ暖かくなりましたね、真田さん」

「そうだな…今日なんかは外でも過ごしやすい」

「そうですね、お日様が気持ちいいです」


少女の言葉に隣に座る青年は青空に光る太陽を見上げ眩しそうに目を細めた。
彼は神奈川の立海大付属中に通う真田弦一郎、この3月に中学は卒業するが…15歳とは思えない程の貫禄と落ち着きを持ち合わせている青年である。
そして隣に座っている少女は、真田より2歳年下であり、東京の青春学園の中等部に通う竜崎桜乃である。
真田は3ヶ月ほど前に桜乃と交際を始め、今日まで順調にお付き合いを続けてきた。
真田は非常に真面目で誠実な性格であり、桜乃との交際も節度をもって健全に…、とても、とても健全に続けてきた。

…しかしいくら真面目で切実な真田といえど、思春期真っ盛りな男の子でもある。

真田は桜乃のことをとても大切に想っている。
大切だからこそ、いとおしくてどうしようもなくなってしまうときもある。

だが桜乃はもとより天然で鈍感な純情少女であり、そんな真田の煩悩など微塵も気づくことなどなかった。

そうは言っても真田は常日頃から自分を厳しく鍛えているので、基本的にはやましい気持ちになどに捕らわれずに落ち着いて桜乃に接することができる。

今も何も問題なく、こぶし1つ程度の間を空けて隣同士に座り、ゆっくりと流れる時間の中、非常に穏やかな気持ちで桜乃と過ごしていた。

そんな二人の間に、少し冷たい風が1つ吹き抜けた。


「あ…風はまだ冷たいですね」

「ああ…、暖かくなったと言ってもまだ3月だからな。」

「そうですね…夕方が近付くと少し冷えるかもしれませんね」

「そうだな。竜崎、寒いなら上着を貸すが…」

「えっ!大丈夫ですよ。真田さんが寒くなっちゃいます」

「いや、俺は大丈夫だ。お前の身体が冷えることの方が心配だ」

「でも…そんな、…あっ、それじゃあ」


桜乃は何か思い付いたように言葉を止めて、座る位置をずらし真田との距離を詰めた。


「! りゅ、竜崎?」

「これなら二人とも暖かいですっ」

「……っ」


桜乃がぴったり身体をくっつけて、満面の笑顔で真田を見上げる。
その笑顔があまりに魅力的で…
たまらなく真田は桜乃を強く抱き締めた。

……脳内で。

実際、真田は耐えたのだ。

(ちゅちゅちゅ中学生の内は…!! 中学生らしい交際を……!!)


真田弦一郎(15)、真面目で誠実で…思春期の男の子。
…真田は耐えた。
必死に煩悩を振り払おうと精神を集中した。


「えへへ…真田さん、暖かい」

「……っ、……」


そんな真田の葛藤など、ただの少しも気付いていない桜乃は、にこにこと無邪気な笑顔のまま真田に寄り添っていた。



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