短編
□わからない気持ち
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「おい、越前〜。最近竜崎さんとどうなんだ?」
「…どういう意味っすか、それ」
部活が終わって、部室で着替えてたら桃先輩が唐突にそんなことを聞いてきた。
「だから、お前ら付き合ってんだろ?手くらい繋いだのかよ?」
「……竜崎とはそんなんじゃないっスよ。」
「へえ〜、俺てっきり付き合ってんかと思ってたにゃ。」
いきなり英二先輩も話に入ってきた。
確かに竜崎とは最近よく帰りが一緒になって、
二人で帰ったりもするし、一緒に寄り道したりもする。
だけど竜崎から好きと言われたわけじゃないし、俺から好きと言ったわけでもない。
「情けないなぁ、越前〜。男ならさっさと告白しろよ。」
「別に…。竜崎のこと好きだとは言ってないじゃないっスか。…今はテニス意外興味ないッスよ。」
確かに嫌いじゃないし、どちらかといえば好きなんだろうけど。
それが恋愛感情かと聞かれれば、即答でYESとは言えないわけで。
「なんだぁ越前。思わせぶりか?」
「そういうのは一番傷つけるぞ〜、おチビ。」
桃先輩と英二先輩がそろって非難の目を向けてきた。
「だからっ、…別にそんなんじゃないって…」
「クス。僕は越前は自覚がないだけだと思うな。」
不二先輩まで話に入ってきた。
「…自覚?」
「越前はテニス一筋で恋なんかするはずないて思い込んでるだけで、自分の気持ちに気付いてないだけじゃない?」
「……。なんスか、それ。」
自分の気持ちに気付いてない?
「早く気付かないと、他の男にとられちゃうかもよ?」
開眼してクスッと笑う不二先輩。
「そーだぞ、越前。まあ自覚したら協力してやっから。」
「頑張れ〜、おチビ。」
…まったく勝手なこと言いすぎ、先輩たち。
「……俺、お先に失礼するっス。」
もうさっさと帰ってしまおうと思い、部室のドアを開けて外に出る。
そしたら視線の先に、堀尾と…竜崎が二人で話しているのかを見つけた。
竜崎はときおり笑って、そんな竜崎に堀尾はデレデレしていた(しているように見えた。)
――――むかっ。
……むかっ?
むかって何だ?
別に竜崎が誰と話していようと、誰に笑いかけようと、俺には関係ないのに。
『他の男にとられちゃうかもよ?』
ふいにさっきの不二先輩の言葉が浮かんだ。
「あ、リョーマ君!」
竜崎が俺に気付いて、呼び掛けてきた。
俺は二人のいる方向へ足を進めた。
「あ、越前〜、今竜崎にさ…、」
「ほ、堀尾くん!だめだってば!」
真っ赤になって慌てる竜崎。
………むかむかっ。
俺はむかむか感の意味がわからないまま、話しかけてきた堀尾を無視して二人の横を通りすぎた。
「お、おい。越前っ?」
「ま、待って!リョーマ君っ、一緒に帰ってもいいっ?」
「………。勝手にすれば。」
後ろから聞こえる焦ったような声と着いてくる竜崎の足音に、
何故か少し安心して、僅かに歩くスピードを緩めた。
「なんだぁ?越前のヤツ…。」
ただ1人わけもわからず立っていた堀尾の後ろで、
「やきもちだね。」
「そうスね。」
「おチビもまだまだだにゃ。」
一部始終をバッチリ見ていた先輩'Sは二人の後ろ姿を暖かーい目で見送っていた。
【わからない気持ち】
(リョ、リョーマ君、何か怒ってる?)(別に!)
end