短編

□君に恋をしたから
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「幸村さん、妹いましたよね」

「うん。いるよ」

「羨ましいです、幸村さんがお兄ちゃんだなんて」

「え」


唐突な彼女の言葉に、俺は一瞬動きを止めた。

二歳年下で青学に通う桜乃ちゃんとは、テニスを通じて知り合いった。
それから彼女に恋をして、恋人同士になったのはつい最近のことだ。


「こんな素敵でかっこいいお兄ちゃんがいたら、自慢できちゃいますね!」


にこにこ無邪気に笑いながら話す彼女。
…彼氏に言う言葉じゃない気がするんだけどな。


「俺は嫌だな。君が妹なんて」

「えぇ!?」


にっこり笑ってそう返すと、あからさまにショックを受けたような顔をした。


「わ、私…なんか嫌われるようなことしちゃいました!?」


桜乃ちゃんは検討違いなことを言っている。
本当に、意味がわかってないんだな。


「ふふ。まさか」


そっと彼女を引き寄せて、唇に触れるだけのキスをした。


「!!ゆ、幸村さ…」

「…兄妹だったらできないでしょ?こんなこと。俺は兄より彼氏がいいな」


自分の腕の中で赤くなる彼女を見つめて言う。
桜乃ちゃんも潤んだ瞳で俺を見つめ返してきた。


「そ、そっか…」



桜乃ちゃんが小さく呟いた声が聞こえた。
どうやら理解したみたいだ。


「…君はどうなの?俺の妹がいいの?それとも…」

「えっと……彼女…が、いいです」


俺の腕の中でうつむいて、小さな声で答える。


「それは、君も俺とこういうことしたいってこと?」

彼女の頬に手をあてて、そっと上を向かせた。


「えええ!?ち、ちが…」

「ちがう?…じゃあ、したくないの?」

「それは、そのっ…えっと」

「…ふふっ」



真っ赤になって慌てる彼女が可愛くて、
思わず笑ってしまった。


「〜〜〜〜!!幸村さん、意地悪ですっ」

「ごめんね。…ふふ」

「う〜〜〜」


頬を膨らまして怒る彼女。
宥めるように頭を撫でていたら、急に彼女が俺の胸に抱きついて顔をうずめた。


「桜乃ちゃん?」

「私も、したいです…」

「え?」

「幸村さんと…キス…」

「!」



最後のほうは消え入りそうな声だったけど、俺にはしっかりと聞こえていた。

彼女の表情は見えなかったけど、きっともうこれ以上ないくらい顔を赤く染めているのだろう。

ふふ、耳まで真っ赤だ。


「君は…本当に、…可愛いね」



胸が嬉しさであふれそう。
俺は彼女の体を一度強く抱きしめて、唇を彼女の耳に寄せた。


「もう一回、キスしたいな。…いい?」

「!!」


そう囁いて、腕を緩めて少し離して彼女を見ると、彼女は案の定、真っ赤の顔で、瞳を潤ませて俺のことを見つめた。
あまりの可愛さに、わずかな目眩さえ感じながら、彼女の名前を呼ぶ。


「桜乃…」


彼女は俺の方を向いたまま瞳を閉じた。
そんな行動のひとつひとつがいとおしくて仕方ない。


「好きだよ。…桜乃」


今日二度目のキス。
一度目より長くて、甘かった。


【君に恋をしたから】

(兄になんか、なってあげない)








end

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