短編

□肩にかかる重さとぬくもり
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跡部さんとお付き合いを始めて数ヵ月。
通う学校が違って、多忙な跡部さんとはたまにしか会えずにいた。

だけど今日は跡部さんの久しぶりの休日。
私は跡部さんの家にお邪魔している。


「相変わらず…広い…」


初めてではないけれどいつ来ても驚くほどの広さ。
本来私なんかが来れるような場所ではないんだよなぁ…、なんて来るたびに思っちゃう。


「何ぼーっと突っ立ってるんだ?早くこっちに来い」
「あ、は、はいっ」


跡部さんに呼ばれて、あわててそばに駆け寄る。

「座れ、桜乃。」

「はい」


跡部さんは先に私をソファーに座らせてから自分も隣に座った。
こんな風に女の子として扱ってもらうのは、嬉しいけれど、なんだかくすぐったい。
跡部さんと付き合うまでは、誰かにこんな風に扱ってもらったことなかったから。


「おい」

「はいっ?!」

「…いつまでそんなに固いままなんだ。いい加減慣れろ」


さっきからずっと緊張しっぱなしなの、跡部さんには気付かれていたみたい。


「う…すみません」

「まあ、いいけどな。これから何度も来るんだから、いやでも慣れるだろ。」


さも当然のことのように言われて嬉しくなってしまう。
これからも一緒だって言われているように聞こえちゃうから。


「桜乃」

「は、はい」

「俺はお前といると落ち着くんだ…」

「え…」


そう言った跡部さんはいつものような強気な声ではなかった。
多忙な毎日を過ごす跡部さん。
表には出さないけど、きっと疲れているんだろうな…。


「…お前は違うのか?」

「私…ですか?」

「俺といるときは、落ち着けない…?」

「跡部さん…」


隣に座る跡部さんに優しく抱き寄せられた。
やっぱりいつもと違う…。
こんなこと思っていいのかわからないけれど、なんだか…弱い感じがする。


「私…私は跡部さんといるときはとても安心できます。」

「……」

「でも…その、跡部さんが、…好きだから…緊張しちゃうんです…」

「…桜乃…」


私を抱き寄せているままの腕が少し強くなった。
私は、この人が愛しくて仕方ない。


「跡部さん…疲れてますよね?」

「……俺が、疲れているだと?」

「はい。」

「………」

「私がそばにいることで跡部さんが落ち着くのなら、…私は少しでも跡部さんの疲れを癒したいです」


そう言って跡部さんにぎゅって抱きついた。
とっても暖かい。
安心できる温度。


「桜乃…」

「眠ってもいいですよ?跡部さん」

「…何言ってんだ、お前。俺は昼寝するためにお前を呼んだわけじゃないぜ」


跡部さんに抱きついていた腕を解かれて、向き合う形にされる。


「ふふ。わかってますよ。起きたらいっぱい構ってもらいます」


私を見つめてくる瞳に笑顔を返した。


「だから、少しだけでも眠ってください。」


こんな弱々しい瞳をしている跡部さんは初めて見る。
私との時間を作るのに、無理をしてくれたんだなってわかる。


「………」

「跡部さん」

「…わかった。30分だけ眠る。」


そう言って私の肩に頭を乗せた。


「お前のそばだったら、ゆっくり眠れそうだ」

「ふふ。よかったです」

「起きたら…キスさせろ」
「!!…跡部さんっ!…」


そんな言葉に赤くなっているうちに、跡部さんは静かに目を閉じて、規則的な呼吸をし始めた。


「ふふっ。跡部さんの寝顔を見るのも初めてだなあ」


滅多に見れそうにないからずっと眺めていよう。
いつも強気で自信家の跡部さん。
頂点にいるのにふさわしい人。
でもきっとずっと強くあり続けるのは、疲れてしまうんだろう。
だから少しでも私が跡部さんの癒しになりたい。
強いところも弱いところも全部大好きだから、すべて受け入れて休ませてあげたい。

…私なんかができるのは、こうして肩を貸すくらいかもしれないけれど。



【肩にかかる重さとぬくもり】

(とても愛しくて、大事にしたいと思った)




end

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