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□So sweet time
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「桜乃、できたー?」
「も、もう少し…です」
4月20日、今日は俺の誕生日。
恋人である竜崎桜乃がたまたま家族がみんな出掛けるから自宅に俺を招いて祝ってくれると言うので、お言葉に甘えて桜乃んちにお邪魔しているわけなんだけど。
…まあ、誰もいない家に男を呼ぶことの危機感のなさは、この際見ないふりをしてあげて。
桜乃がプレゼントと、たくさんのお菓子で祝ってくれてすげー嬉しい。
そして今、メインのバースデイケーキを用意してくれているらしい。
桜乃の手作りなんだけど、仕上げが上手くいかず俺が来たときはまだかんせいしてなかったらしくて、今チョコペンで最後の仕上げとやらに奮闘している。
誕生日なわけだし、チョコペンでなにを書いているのかはまあわかるけど。
頑張ってくれている桜乃が可愛いから、俺は大人しく待っている。
「よ…し、できたっ!」
「お、マジ?待ってました!」
「はい!お待たせしましたっ」
桜乃が笑顔でケーキを運んでくる。
生クリームとイチゴの、オーソドックスなホールケーキ。
でも、それは予想していたのとちょっと違っていたケーキだった。
「……これ、」
てっきりHappy Birthdayって文字を書いてるかと思ったんだ。
たしかにそれも、書かれてる。
ちょん、と乗せられたチョコのプレートに。
ケーキの本体には、別の文字が添えられていた。
『ブン太さん
いつもありがとう
ずっと 大好きです』
イチゴに囲まれた円の中、チョコペンでそう書かれている。
「えへへ…、ちょっと恥ずかしいですけど、私がブン太さんに今一番伝えたいことです。」
そう言ってはにかむ桜乃。
どうして、桜乃ってこんなことできるんだろ…。
どれだけ、俺を喜ばせたいんだよ。
なんかもう…やばいって。
「…もー、ばか桜乃…こんなん勿体無くて食えねーじゃん…」
「えっ!食べてくれないんですか?」
「食うよ!食うけどさ…、も〜…」
こんなに美味そうなのに、食いたくないケーキは初めてだ。食ってなくなってしまうのが勿体無くて仕方ない。
とにかく写メ!せめて画像では残しておきたいから、パシャパシャと何回も撮って、それでも名残惜しくてじーっとケーキを見つめる。
なんか胸が苦しくなるくらい、桜乃が好きな気持ちで溢れてくる。
好きで好きでたまらない。
「なあ、これ桜乃が食わせて。」
「えっ?」
「だって俺、勿体無くてフォーク入れられないし。だから桜乃が食わせて」
「もー、わかりました。いいですよ。誕生日ですもんね」
「やった!」
桜乃がフォークをケーキにいれて、一口分を取ってくれる。
「はい、あーん」
「あーん」
ぱくりと食べると、俺の大好きな生クリームとスポンジの甘さが口に広がった。
「んま〜」
「ふふ、良かったです」
大好きな君と過ごす誕生日は、とてもとても甘い時間。
手作りケーキに書かれたメッセージは、食べてなくなってしまってもずっと俺の心に残り続ける。
俺も…ずっと大好きだぜ、桜乃。
【So sweet time】
(あ、でもケーキは端から取ってな!文字は最後までとっといて)(ふふ、もう…わかりました)
end