□無自覚な悪戯
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晴れて青空が広がる日曜日。
学校は休みで部活もなかった今日は、都内の河川敷にあるテニスコートで恋人である竜崎桜乃にテニスを教えていた。
別に普通のデートもしなくはないが、俺たちはそもそもテニスを通じて知り合ったんだし、付き合う前から桜乃にテニスを教えていたから、天気の良い日は一緒にテニスをすることが多かった。

そろそろ正午になりそうだったので、いったん練習を切り上げて、桜乃にどこかに昼食を食べに行くぞと誘うと、桜乃は急にぱあっと笑顔になった。


「? なんだ?そんなに腹へってたのか」

「違いますよ!実はですねえ…、今日はお弁当作ってきたんです!」


言いながら鞄の中からいそいそとランチボックスを二つ取り出して、どうぞ、と大きいほうを俺に渡してくる。
俺はそれを受け取って、膝の上に置いた。


「手作り弁当か…」

「日吉さん…もしかしてこういうの、迷惑でしたか?」


不意に不安げな表情で聞いてくる桜乃。
バカだな。迷惑だなんて思うわけない。
桜乃の手作りなんて、嬉しいに決まっているのに。


「そんなこと言ってないだろ。…味は大丈夫なんだろうな?」

「は、はい。味見はしましたから…」

「ふん…、開けるぞ」

「はいっ!どうぞ!日吉さんの好物をいっぱい入れたんですっ」

「俺の好物?」


俺の好物って…、桜乃はいつ俺の好物を知ったのだろうか。
少し疑問に思いながら、弁当箱の蓋を開けてみた。

……。

俺は弁当の中身を見て、しばらく言葉が出なかった。


「…………桜乃、」

「はい?」

「俺の好物って、もしかして向日さんに聞いたのか?」

「はい。よくわかりましたね」


…わかるさ。

このキノコまみれの弁当を見ればな。


ご飯にもおかずにもすべてにキノコが混ざっている。
マイタケ、シメジ、シイタケ、マッシュルーム…。
こんなにキノコまみれの弁当、初めて見たぜ。
桜乃を使ってこんなイタズラを仕掛けてくる人なんて、向日さんくらいしか思い当たらない。
どういうつもりだ、あの人は…。


「向日さんが、日吉さんはキノコが好きで好きで堪らないからキノコづくしのお弁当を作ってやれば喜ぶって、アドバイスを…」

「……」

「も、もしかして嫌いでしたか!?キノコ…。無理に食べなくても…、」

「…向日さんのその情報は嘘だけど、別に嫌なわけじゃない。食うから」


言ってから、俺はすこし複雑な気持ちのまま弁当を食べ始める。

ああでも…美味いな。


「美味しいですか…?」

「フン…まあまあだな。」

「良かった!日吉さんのまあまあは、誉め言葉ですもんね?」

「チッ……。また作ってこいよ。俺の本当の好物、教えてやるから」

「はいっ!」


桜乃は笑顔で返事をして、自分も弁当を出して食べ始めた。
向日さんめ…あとで文句を言ってやる、と心に決めつつ、俺は初めての桜乃の手料理を、彼女の隣で、一口ずつ味わっていた。



【無自覚な悪戯】

(ったく向日さん、自分のほうが変な髪型してるくせに俺のことをキノコキノコって…)(…え?)(…なんでもない)



end

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