□恋を繋ぐ誕生日
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(はあ…緊張する)

竜崎桜乃は今、神奈川県にある立海大付属高校の校門前に来ていた。
都内の中学校に通う桜乃がなぜここに来たのかというと、この学校に通う青年…真田弦一郎に会うためだった。
去年、テニスを通じて知り合った真田と桜乃。
桜乃は何度も真田にテニスの指導をしてもらっていた。
関わっていくうちに、いつしか桜乃は男らしくも優しい真田の人柄に惹かれていた。

5月21日、今日は真田の誕生日である。
桜乃は今日、誕生日プレゼントを渡して真田に気持ちを伝えるつもりだった。

しかし、こうして学校に会いに来ること自体が初めてで、桜乃は多大な緊張に襲われていた。

(ちゃんと渡せるかなあ…)


「…竜崎?」

「ひゃああわわわっ!!!」


不意に声をかけられて、桜乃はつい大声をあげてしまう。
声をかけた主は、桜乃の声にむしろ驚いたが、冷静に再び声をかけた。


「す、すまん。驚かせたか?」

「さ、ささ真田さんっ!い、いえ、私こそ、すみません…大声出したりして」


桜乃は自分が会いにきた相手を認識して、慌てて頭を下げる。
真田はそんな桜乃に大丈夫だ、と答えた。


「それより、こんなところで何をしていたんだ?誰かに用だったのか?」

「あの、えっと…」


桜乃は手に持っていた真田へのプレゼントを見た。
心臓がドクドクと速くなる。

(もう…!ここまで来たんだから躊躇ってる場合じゃないでしょ私…!)

桜乃は小さく深呼吸して、プレゼントを真田に差し出した。


「真田さんっ…お誕生日おめでとうございます!」

「! 知っていたのか…」

「はい、あの、う、受け取って貰えますか…?」

「…ああ。ありがとう」


真田は桜乃の手からプレゼントを受け取って、大事そうに鞄にしまった。
桜乃はとりあえずホッとするが、もう1つの目的をまだ果たしてないので未だ心臓は速いままだった。


「あの…」

「…ん?」

「……」


いざ気持ちを伝えようとしたら、桜乃は言葉が出せなくなった。


「竜崎…?」

「……っ」

「……もう時間が遅いな。駅まで送ろう」

「……はい…」


真田の言葉に桜乃は頷いた。
日が沈みかけていて茜色に染まった道を、二人は並んで歩き出す。
桜乃は涙が出そうだったが必死に堪えていた。

(なんで…言えないんだろう)

…なんて、理由はわかっていた。
怖いのだ。真田がどんな反応をするか、困らせてしまうのではないか、いろいろなことを考え始めると怖くて言えなかった。

うつ向いて歩いている桜乃に、不意に真田が話しかける。


「…竜崎。今日は俺の誕生日のために、ここまで来たのか?」

「…は、はい。ご、ごめんなさいっ…もしかしてご迷惑でしたか?」

「ち、違う!そうではなくてだな…、嬉しかったんだ。…ありがとう」

「! 真田さん…」


桜乃が顔を上げて真田を見上げると、真田はまっすぐ前を向いていた。
その頬が赤く染まっていることには夕焼けに照らされて隠れてしまっていて、桜乃は気づかなかったのだが。

(……嬉しいって、言ってくれた…。)

好きだという気持ちが溢れて、胸が苦しくなる。
やっぱり、伝えたい…。

駅の前に着いた二人は、足を止めた。


「真田さん、送ってくれて、ありがとうございました」

「ああ。気を付けて帰るんだぞ」

「はい。…あの、真田さん」

「…ん?」


桜乃は真田と向き合って、まっすぐに顔を見上げた。
怖いと思う気持ちが消えた訳じゃない。
だけど今なら…、きっと言える。
桜乃は静かに息を吸って、言葉を紡いだ。


「…好きです…」

「…!!」

「真田さんのことが…ずっと、好きでした」

「……」

「い、いきなりごめんなさい…。伝えたかっただけなんです。ではっ…」

「! ま、待て!」


伝えるだけ伝えて、立ち去ろうとした桜乃の腕を、真田は慌てて掴んだ。


「…わっ…」

「す、すまん。…もう少しだけ、待ってくれ」


言われて桜乃は真田を見上げる。
街灯に照らされて見えた真田の顔は、赤く染まっていた。


「…さ、真田さん…。」

「そのようなことを言われて、答えずにはいられん。…耐えられるわけ、ないだろう」


真田の真摯な瞳が桜乃を見据える。
桜乃は逸らすことができずに、真田の瞳を見つめ返した。


「…俺も、お前のことが――…」


夕日が沈んでしまって…空に星が輝いている。
人通りが多い駅前で、その瞬間だけはまるで、二人きりになったよう。

…真田の言葉が耳に届いた桜乃は、ずっと堪えていた涙をポロリと溢した。



【恋を繋ぐ誕生日】

(な、何故泣くんだ!?)(だ、だって…嬉しくて…)


end

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