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□ライバル
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中学テニス界に関わる者で『立海大付属中の3強』を知らぬ者はいない。
神の子と呼ばれる部長の幸村精市、副部長で皇帝の名を持つ真田弦一郎、そして参謀として二人を支える柳蓮二。
彼等は共に立海を支えてきた信頼できる仲間であり、互いの成長のために刺激し合えるライバルでもあった。
…しかし、まさかテニスを抜きにしてもライバルになるなんて、彼等は知らなかった。
…ある少女に出会うまでは。
「幸村部長、夕御飯の支度ができました!」
「うん。ありがとう、もう練習を切り上げるよ」
立海大付属中テニス部の夏の合宿。
マネージャーを務める1年生の竜崎桜乃は、合宿所で練習に励む部員たちのサポートに走り回っていた。
もとより真面目な性格で働き者な桜乃は、部員たちからも気に入られていた。
中でも部長である幸村、データを管理している柳は桜乃と関わることが多いので、特に可愛がっているようだった。
「…ほう、美味そうだな。バランスも良い」
「えへへ、柳先輩のアドバイス通りに栄養を考えて作ったんです」
「毎食竜崎さんの手料理が食べれるなんて贅沢な合宿だよ」
「そんな…たいしたものは用意できないし、手伝ってもらってますから」
献立はすべて桜乃が立てていたが部員全員の食事を桜乃一人で用意するのはさすがに大変なので、1年生が当番を決めてローテーションで桜乃を手伝っていた。
「そうだね。1年のみんなにも感謝しないと」
「はい、みんな一生懸命作ってましたから」
「そうだな。作ってくれたお前や部員たちのためにも、味わって食べよう」
「えへへ、是非味わって食べてください!」
そう言いながら幸村と柳は桜乃を挟んで撫で撫でしていたが、桜乃は二人に可愛がられることはもはや慣れっこなので、にこにこと二人に笑顔を向けている。
その様子を少し離れた場所から複雑な表情で見ていた青年が一人。
「…真田副部長は、混ざらなくていいんスか?」
「! なっ…俺は別に…」
二年生の切原赤也がコソコソッと話しかけているのは、副部長である真田弦一郎だった。
真田は後輩の言葉に上手く返せずに、幸村たちからフイと目を逸らす。
(まったく…相変わらず素直やないのう。)
(ほんと、不器用すぎだろぃ)
明らかに気にしているのに無理に気にしないようにしている真田の様子を、赤也や他のレギュラーたちは、やれやれと呆れながら見ていた。