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□本当のような嘘
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※「純情系王子!」の続編です。
「こんにちは裕太さん!今日はがんばってくださいね」
「竜崎!来てくれたんだな。ああ、応援ありがとな。絶対勝つぜ」
秋風が少し涼しくなってきた10月の日曜日。
本日聖ルドルフ学院男子テニス部は学院内で他校との練習試合を予定していた。
この秋、3年生が引退して2年生の不二裕太が部長になり、初めての練習試合だった。
青春学園1年の竜崎桜乃は、親しくしている裕太の応援をしようとルドルフ学院に足を運んでいた。
「やあ、竜崎さん」
「お前も応援に来たんだーね」
「木更津さん、柳沢さん、観月さん。こんにちは!皆さんも応援ですか?」
「んふっ、ええ。裕太くんが部長になって初めての試合ですからね。…新たなルドルフの第一歩ですから、頼みましたよ裕太くん」
「わかってます!絶対に勝ってみせますよ」
桜乃は裕太と同じテニスクラブに通っているため、テニスクラブメンバーの観月、木更津、柳沢とも面識があった。
5人がちょっとした雑談をしていると後ろからルドルフ学院テニス部元部長の赤澤が姿を現した。
「よ、裕太。今日は思いっきりルドルフの力を見せつけてこいよ!」
「赤澤先輩も応援に来てくれたんですか!はい、任せてください」
「おう!期待してるぜ。…ところで、そっちの子は…」
「あ…、こいつは俺らと一緒のテニスクラブに通ってる青学の、」
「あっ、えっと、はじめまして。青学一年の竜崎桜乃です。」
赤澤が桜乃のほうをチラリと見たので、裕太は紹介しつつ桜乃が自分で名乗ると、赤澤は「ああ」と一人合点がいった顔をして言葉を続けた。
「なるほど、あんたが噂の裕太の彼女か」
「は!!?」
「え!!?」
赤澤の言葉に裕太と桜乃は同時に声を上げて、一気に顔を赤く染めた。
観月はやれやれといった顔で、赤澤に訂正を入れる。
「二人は恋人同士ではないですよ。…まだ。」
「お、そうだったのか。すまないな」
「……」
「……」
『まだ』って…!!と観月の言葉につっこみたい裕太と桜乃だったが、相手がどう思っているのかわからないため赤い顔のまま黙るしかなかった。
1ヶ月ほど前、裕太が桜乃を誘ってケーキバイキングに行った以来、二人で遊ぶ約束もするようになった桜乃と裕太だが、関係は未だ「お友達」のまま。
二人を知る観月たちテニスクラブメンバーや、裕太の兄であり桜乃の先輩である不二周助は、進展がゆっくりすぎる二人をじれったく思いながら見守っていた。
「裕太―!そろそろ集合させよう!」
「ああ、わかった!今行く」
現副部長の金田に呼ばれた裕太は振り向いて答えたあと、再び自分の先輩たちに目を向ける。
「先輩方、見ててください。俺たちの…、新しいルドルフの初勝利を!」
「んふっ、任せましたよ裕太くん」
「ああ、行ってこい裕太」
「はい! あと…竜崎」
裕太はちら、と桜乃を見る。
桜乃も「はい」と答えつつ裕太を見上げた。
「…来てくれて、ありがとな。お前が見ているって思うと、すげー頑張れそうな気がする」
「! ゆ、裕太さん…。頑張ってください!私、いっぱい応援しますから…!」
「ああ、サンキューな。行ってくる」
最後に少しだけ微笑んで裕太は金田のほうに向かった。
桜乃は胸で両手を重ねながら、裕太の後ろ姿を見送っていた。
「…おい、あの二人本当に付き合ってないのか?」
「ええ。嘘みたいですが本当に付き合ってないんですよ、まだ」
先ほどの裕太と桜乃のやりとりを見た赤澤が桜乃に聞こえないようにこそこそと観月に尋ねたが、そんなやりとりは見慣れている観月は呆れたように答えていた。
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