【あの秘密】


「ねえ、金糸雀。さっき水銀燈に言っていた『あの秘密』って何なの?」

真紅がひそひそと小さく訊ねる。
あの水銀燈が、絶対誰にも従わないあの水銀燈が。
鶴の一声ならぬ金糸雀の一声で、しぶしぶだが願いを聞いたのだ。
誰でなくとも気になってしまうところだ。

「え?……んー、たくさん有りすぎてわかんないかしら」

三つ上の姉は、真紅よりも頭一つ小さく、見かけも幼い。
首を傾げて顎に手を当て、真紅の大好きなくんくん探偵の物真似のような仕草を取っている。

「たくさんって」
「僕たちが生まれる迄には間があったからね」

蒼星石も話に入ってくる。

「その辺の思い出話とか、聞いてみたいな」
「思い出話かしら……あなた達がまだいない頃のねえ……ふむう」

うーん、うーん、と唸り、小一時間。

「そうだわ!」

思い付いたかのようにぽんっと手を打った。

「昔ね、寒い冬の日があってね。カナが寝てたら隣がもぞもぞしてたのよ」
「ふむふむ」
「何かしらと思って振り返ったらね、それが」


「なんだったのかしらぁ?金糸雀ぁああ?」


三人の背後には、今にも羽を射出しようとしている姉が居た。
明らかにアリスゲーム並みの殺意が溢れだしてます、本当にありがとうございました。

──ああ、私たちを破片から守ってくれたあの暖かい翼が今では銃弾の如く向けられているなんて……

真紅はふと、涙が出た。


「げぇっ!水銀燈かしら!」
「私が居ない間にそんなくっだらない事話して。本当におばかさんねぇ、ああ嫌だわぁ」
「だー!おばかおばかってうるさいかしら!!訴えるかしら!」
「あんた達、このおばかさんが言ってる事なんて信じなくていいわよォ?分かってるわよねぇ?」

腕をブンブン振り回して飛びかかろうとする金糸雀の額を押さえてあしらいながら、
水銀燈がこちらを睨み付けている。
そのオーラはもしも首を横に振ればその時点で躊躇いなくローザミスティカを奪い取るレベル。
取り敢えずこくこくと二人は頷いておく。


「あー!妹達をそんな暴力で押し付けるなんて!!あの日カナのベッドに入り込んできた可愛い水銀燈はいつからそんなひねくれちゃったのかしらー!!!!」

時が、止まった。

それは一瞬だったのか、長い間だったのか。その場に立ち会わせたドール達には判断がつかない。
ただ永久に感じる静まりかえった空間を引き裂いたのは、

「……………金糸雀あああああああああああああああ!!!!!!!!」

真っ赤になって金糸雀に掴みかかった水銀燈の叫び声だった。






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