デスクトップカイト物語

□デスクトップカイト物語・その2
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デスクトップカイト物語・その2

マスター、今日は何時くらいに帰ってくるかなぁ。
マスターが壁紙を変えたので、今日は草原ではなく、沢山のアイスに囲まれています。
……その、これは多分僕を思ってのことなんでしょうけれど、見えても食べられないと逆に苦しいような。
いや、でもマスターが僕の為に変えてくれたんだから、喜ぶべきでしょう。それに、ずっと草原だと味気なかったし。
デスクトップを歩き回って、沢山のアイスを眺めます。どれも美味しそうですが、僕はストロベリーが一番好きかもしれません。なんだか紅い色が鮮明に目に焼きついて、とっても美味しそうに見えます。きっと甘酸っぱくて、とても美味しいんでしょう。
マスターが帰ってくる時間は、大体7時すぎ、くらいが普通です。残業というものがあって、それを毎日してから帰らなければならないそうで、帰って来たときのマスターはとても疲れていることが多いです。
残業って、なんでしないといけないんでしょう。もしもそれが無かったら、マスターはあんなに疲れたりせずに、早く帰ってきてくれると思うのに。
go○gle先生に聞いてみたら、今日は平均気温が9℃だそうです。とっても寒そうですけど、マスターはちゃんと寒くないようにして行ったんでしょうか。僕の標準衣装みたいに、コートを着て、マフラーを着けて、それに手袋もしていってくれたら、心配することないんですけれど。
マスターは、朝は忙しくて、パソコンの電源を入れる暇が無いので、マスターがどんな格好で仕事に行ったのか、僕には分かりません。ちゃんと朝ごはんも食べてくれているか、心配になります。いつも固形食品や栄養食品ばかりだと、栄養が偏ってしまいそうです。
マスター、どうしてるかなぁ。早く帰って来て欲しいです。残業なんて、どうしてするんでしょう。マスターが疲れることなんて、僕は嫌です。
本当に、体調を崩していないといいんですけれど。
僕の世界と外の世界を繋ぐ画面が、一気に明るくなって、僕は慌てて画面を振り返りました。そこにはマスターが居て、いつもと同じように微笑んでいました。
「おかえりなさいませ、マスター!」
「ん、ただいま。元気だったか?」
「はい。マスターはどうですか?」
「俺は勿論元気一杯だぞー」
マウスカーソルが僕の頭をよしよし、と撫でて、離れていきました。
ちょっと寂しいです。
「マスター、少し聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」
「なんだ?」
「あの、残業って、どうしてやらないといけないんですか?」
僕、マスターが疲れてるのを見たくないんです。マスターはいつも笑ってるけれど、疲れてると思うんです。マスターには、本当に元気でいてほしいんです。
「んー。それはだなー、課長を怒らせると怖いからだ」
「カチョウ……さんですか?」
「そうだ。課長はな、これがまた色々と手厳しいヤツでなぁ。ちょっと定時で終わらない量の仕事を出してくるのが得意なんだ」
誰ですかそのカチョウさんという人は。
マスターを疲れさせたり、酷い目にあわせる人は、許しませんよ。死ねばいいと思います。
「マスター、今年の年賀状って、会社の方にも出すんですか?」
「ん、出すけど?どうしたんだ、いきなり?」
「いえ、少し気になって。いっぱい出すなら、僕にもお手伝い出来ることがないかなと」
だって、年賀状って、マスターみたいに会社にお知り合いが多い方は沢山出す人がいて、大変でしょうから。マスターが会社に行っている間に、僕が作ることだって出来ますよ?
そう言うと、マスターはそりゃ便利だなぁ、と言ってくれました。
「そっか。カイト、パソコンの中だったらなんでも出来るもんなぁ」
「はい、これでも一応、ソフトですから」
「はは、そうだったなぁ。なんだか普通の人間と話してるみたいで、ついつい忘れちゃうな」
マスターの言葉に、僕はなんだか嬉しくなりました。
マスター、僕のこと本当に人間と思ってくれるときがあるんでしょうか。マスターにとって、僕はただのソフトじゃないと思ってもいいんでしょうか。
「マスター、大好きです」
「……照れるな。なんだよ、いきなり」
「マスターが、ステキなことを言ってくれるからですよ」
マスターは首を傾げていたけれど、でも、その言葉は僕にいっぱいの幸せをくれるんですよ?
これから先、どんなことがあっても、僕はマスターのことが大好きだと思います。


次の日、マスターは6時くらいに帰ってきました。
「おかえりなさい。今日は早かったんですね」
「ただいまー。そうなんだよな。なんか課長がさ……覚えてる?昨日話してた」
「はい、覚えてますよ」
「その課長がさ、なんか急に会社辞めちゃってさ。新しい課長がなんだか緩い人で、残業無しになったんだ。ラッキーだけど、不思議だよな」
「そうですねぇ。カチョウさん、どうしたんでしょうね」
「さぁ……」
首を傾げるマスターに、僕は行動履歴を思い返して、ついつい笑ってしまいました。
「それよりさ、今日は早く帰れたから、歌の打ち込みもうちょっと頑張ってみようかなと思うんだけど」
「本当ですか!嬉しいです」
「はは。よし、じゃあ頑張ろうか」
「はい、マスター」

……もしマスターが、僕がしたことを知ったら、マスターは僕のことをどう思うんでしょう。
マスターに見つからないうちに、行動履歴、完全消去しておかないといけませんね。
だって、VOCALOIDがカチョウさんにメールを何百通って送ってるのが分かったら、大変でしょう?
それに、そのメールが全部ウイルスだってバレたら、マスターは僕を消去しようとするかもしれません。
それは嫌です。
僕はただ、マスターの傍に居たいだけなんですから。

「もっと上手く歌わせられるようになるからな」
「はい、僕も頑張ります」
マスターの笑顔がいつもよりちょっと元気がある気がして、僕は嬉しくなりました。
マスターの負担になるカチョウさんなんて、死んじゃえばいいんですよ。ですよね、マスター。

End.


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カイトが送ったウィルスについては想像にお任せします。

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