デスクトップカイト物語

□デスクトップカイト物語・その3
1ページ/1ページ

デスクトップカイト物語・その3

…とっても、イライラします。
マスターとお話してるのに、マスターが嫌な話ばかりするから、つい嫌な顔になってしまいます。
「それでさ、今日スーパーに行ったらさ、KAITOがいたんだ。しかも2体。いるもんだなー、こんな近所に」
「……そうですね」
だからなんだって言うんでしょう。マスターの目の前にいるのは、そのKAITOじゃないでしょう?今、貴方の目の前に居るのは僕です。貴方と話しているのは、その、アンドロイド型のKAITOじゃありません。デスクトップ型の、僕です。
そんな話、聞きたくありません、マスター。
「なんだか仲良さそうでさー……どうした?カイト、具合悪いのか?」
「いえ、その……はい、ちょっと」
マスターが、僕以外のVOCALOIDの話をする必要なんてありません。マスターが見ていいVOCALOIDは、僕だけです。
…でも、そんなことを言ったら、きっと、嫌われてしまいます。だから、僕は誤魔化しました。マスター、気づかないでください。僕のこの思いに。
いえ、気づいて欲しいんです。本当は。マスターに、僕には貴方しかいないことを知ってほしいんです。貴方だけのVOCALOIDです、マスター。だから僕にも、せめてこの時間だけは僕だけのマスターでいて欲しいんです。気づいてください、マスター。
でも、マスターは僕が言ったことを信じてくれたようで、途端に心配そうな顔になりました。
「ええ、大丈夫か? まさかウイルスとか」
「いえ、その、ちょっと調子悪いだけですから………すみません、今日はちょっと…」
「ああ、ごめんな、なんか無理させたみたいで」
「いえ、そんなことありません。…マスターとお話出来て、嬉しかったです。おやすみなさい、マスター」
「おやすみ、カイト」
そして、僕は自分からKAITOを終了させました。これ以上、マスターの笑顔を見ることが辛かったんです。
どうして貴方は、アンドロイド型のKAITOのことを、そんなに楽しそうに話すんですか?
僕だってアンドロイド型だったら、そのKAITOのようにマスターと一緒に買い物に行けるのに。
マスターは僕がデスクトップ型ということに、なんの不満も抱いていないようで(当然かもしれないけれど)。僕ばっかりがこんな気持ちになっていて、なんだかとってもイライラします。
どうして僕は、アンドロイド型じゃないんでしょう。

あれから早く帰ってくるようになったマスターは、自分でご飯を作って食べるようになりました。良かったです。良かったのですが。
それのせいでさっきの話になるんですよね。
スーパーで2体、アンドロイド型のKAITOを見たそうです。とても楽しそうだったとマスターは言ってました。
僕がアンドロイド型だったなら、マスターと一緒に買い物にも行けるんでしょう。楽しくお喋りしながら、マスターと一緒に、お買い物。
……考えるだけで嬉しくなります。夕飯の相談とかしながらですか?マスター、今日は何が食べたいですか?とか聞いたりとかですか?
なんですかそれ。すっごく素敵じゃないですか。ああああもう、なんで僕はデスクトップ型なんですか。
どうにかしてアンドロイド型になれないんでしょうか。勿論、マスターが新しくアンドロイド型のKAITOを買ってくる、なんていうのは論外です。
マスターのVOCALOIDは僕1人で十分です。マスターは、僕だけのマスターなんですから。
だから、なにか身体を得る為の良い方法はないんでしょうか。
出来るならアンドロイド型のKAITOの身体がいいんですけれど、流石にそれは高望みでしょうか。自分の意思で動くことが出来て、更にマスターの負担にならないような、そんな理想的な身体。そうなると、やはりKAITOの身体が一番当てはまるんですけれど。
…どこかにKAITO、落ちてないかなぁ。
そこまで考えて、僕は頭を振りました。
そんなこと考えたって、どうしようもないんですよね。KAITOの身体が都合よく落ちているわけがないです。そんなの、夢見がちなただの妄想です。
溜息をつくのを止められません。
妄想だと言い切っても、もしも身体があったなら、という想像は、僕の中で膨れてパンパンになっているんです。
マスター。
貴方はどうして、僕を選んだのですか?
貴方に会えて嬉しい。でも、どうしてデスクトップ型なんていう、ロストナンバーにも等しい僕を。
教えてください、マスター。


End.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ