AKAITOだらけのボカロ一家

□徒然ログ
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思い出したくない思い出

家事が一段落して暇になったのか、カイトが話しかけてきました。
「ねぇ兄さん、気になることがあるんだけど」
「んー?」
本から顔を上げて聞き返すと、カイトは首を傾げてあのね、と切り出しました。
「僕がいない頃、ご飯とか洗濯とかどうしてたの?」
「……………」
聞かれて、はてどうだったかなと思い出してみます。そうですねぇ。カイトがいなかったときは……確か……

お腹が空いた、と言って、3日ほど何も食べていなかったマスターがキッチンに立ちました。良かったです。起動してからアイスしか食べていなくて、僕もお腹が大変なことになっています。お腹が空きすぎて痛いです。
マスターは何を作ってくれるのでしょう、楽しみです。出来れば温かいものがいいです。アイスを食べ過ぎて冷えすぎてしまった回路を暖めてくれるようなものが食べたいです。
マスターはキッチンに立って、ワクワクする僕の目の前で頭上の棚を開けました。フライパンでも出すのかな、と思っていると、棚の中には丼のような形をした何かが積んであり、マスターはそれを一つ取り出して上蓋をぺりぺりと剥がし始めました。
……あれ、それは僕の知識によるとカップラーメンと呼ばれるものに酷似しているのですが。気のせいですよね? それはお皿か何かで、今からマスターが何かを作ってくれるんですよね? そうだと言ってください。
マスターは上蓋を途中まで剥がすと、中から2つほど小さな袋を取り出し、1つを開けて中身を注ぎ、ポットからお湯を注ぎました。上蓋を元の通りに閉じて、もう1つの袋を蓋の上に乗せます。
それを箸と一緒に僕が座っていたテーブルまで持ってきて、ヒヨコの形のタイマーをセットしました。
……どこからどう見てもカップラーメンです。あぅぅ……ますたぁ、カップラーメン以外に無いんですかぁ?
もうお腹が空きすぎて動けないでいると、マスターはそんな僕を見て首を傾げました。
「ん? どうした、どっか悪いのか?」
「ますたぁ……お腹空きました……」
「は?」
僕の言葉にまさしく目を点にして、マスターは酷く驚いていました。
「あれ、お前アイス食ってたろ?」
「足りませんー……アイスじゃお腹は膨れないです……」
「うっそマジで!お前アイスだけで大丈夫かと思ってた!」
「そんなぁ!」
あ、あんまりです!僕たちだってヒトと同じように空腹は感じます!ちゃんと説明書にも書いてありますよ!有機素体を多く使用しておりますので、人間と同様に食物を摂取する必要があります、って!
「や、だから食物ってアイスのことかな、と」
「ふぇぇ……」
お、お腹が空きすぎて涙が出てきました。だから今までアイスだけはたっぷり貰えたんですね……納得しました。嬉しいんですけど、アイスはあくまで嗜好品なのでご飯は別に取らなきゃいけないんです。いけないんです!大事なことだから2回言います!
「え、じゃあどうすっかなー。カップ麺でいい?」
「……あぅぅ…………はい……」
もうこの際、カップラーメンで構いません。お腹が膨れるならなんでもいいです。
マスターがくれたカップラーメンを、作り方通りに作って食べました。
……油っぽいですぅぅ……あんまり美味しくないですぅぅ……初めてのご飯がカップラーメン……あぅぅ……
…………ぐす、ぐす。


……………。
スゴく嫌なことを思い出しました。ああそうでした。カイトがやって来てご飯を作ってくれるようになるまで、連日カップ麺で暮らしてたんですよね。
アイス、カップ麺、アイス、カップ麺、またアイス。という日々でした。人間だったら不摂生で倒れてもおかしくないですね。
ああ……嫌です嫌です。これ以上思い出すと、俺の精神回路に異常が。止めときましょう。
カイトが何も話さない俺を不思議そうに見つめて、首を傾げています。
「兄さん?」
「あー……」
話したくないし、思い出したくもないです。本を読むフリをして、カイトの質問は黙殺することにしました。
「どうしたの? ねぇ」
「……………何も聞くな」
「え……」
それだけ言うと全てを察したのか、カイトは黙り込みました。
「お前が来てくれて、ほん………っとうに良かった」
「そ、そう……なんだ……」
力の限り本気で頷きます。えぇ本当に。もうあんな生活はゴメンです。二度とカップラーメンは見たくないです。
「うわぁ……あの、ゴメンね? 嫌なこと聞いちゃって」
「いい……別に」
不問にしてやるからその代わり、これからもずっと美味しいご飯作ってくれ。切実に。マジで。
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