AKAITOだらけのボカロ一家

□徒然ログ
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照れマスター

ある日、三男カイトがこんなことを言い始めました。
「マスター、あのですね」
「ん?」
「マスターのこと、秋ちゃんって呼んでもいいですか?」
「…………は?」
三男カイトが意気込んで言ったことに、マスターは怪訝な顔をしました。
「秋ちゃん……ぷ」
「こらそこ」
長男カイトが口元を押さえてにやけています。マスターに注意されてもまだ肩を震わせています。どうやらツボに入ったらしいです。
しかし、三男カイトもまた面白いことを言いますね。秋ちゃんですか……いいんじゃないですか? 可愛らしくて。ぷ。
「お前も笑うなっつの」
「いたっ」
つられて笑っていると、長男カイトともどもはたかれました。痛いですね、何するんですか。
「まったく……何だよ秋ちゃんって。んなもん却下だ却下」
「ふぇ……ダメですか……?」
「うっ」
目を潤ませて上目遣いにマスターを見つめる三男カイトの視線に、マスターは固まりました。しかし直ぐに我に返ったらしく、首を振っています。
「だ、駄目だっつの。大体、何なんだよその秋ちゃん、ってのは」
「えっとですね、ミクが、仲良くなりたい人はニックネームで呼ぶともっと仲良くなれる、って教えてくれたんです」
「アイツか……あのちびっこめ」
マスターは何を想像したのか、非常に苦々しい表情になりました。
ああ、そういえば以前、ミクが毛利さんを毛ちゃんと呼ぶようになった経緯を教えてもらいましたね。それで三男カイトも真似してみたくなったのでしょう。
「ダメですか? 秋ちゃん」
またマスターをじっと見つめる三男カイトでしたが、マスターはもうほだされてはくれないようです。
「ダーメだっつの。俺はマスターって呼んでもらうの気に入ってんだよ」
「あう」
ぺちん、と三男カイトの額を指で弾きます。三男カイトは額を両手で押さえて、残念そうな顔をしました。
その顔を見て溜め息をつき、マスターは今度は三男カイトの頭を撫でます。
「大体、マスターだってあだ名みてぇなもんじゃん。それでいいだろ?」
「……むー」
まだ納得がいかないのか、三男カイトは唇を尖らせています。よっぽど秋ちゃんと呼びたいんですねぇ。
それなら一つ良いことを思い付きました。
「カイト」
「ふぇ?」
「あのね、マスターは苗字をあだ名にされると、毛利さんに呼ばれてるみたいで気に食わないんだよ」
「はぁ!? んなわけねぇだろ!」
マスターが何か言ってますが、無視です無視。
「だから康って呼べばマスターも喜んで……」
最後まで言う前に、マスターに殴られました。すっごく痛いです。
けどマスター、図星でしょう? 素直じゃないですね。
「だっ、誰がそんなことで喜ぶか!」
「ふぇ? んーと……康?」
「う」
「康って呼んでいいんですか?」
「だっ、駄目だ! 絶対駄目だ!」
「ふぇぇっ」
秋ちゃんと呼ばれた時よりも断固として拒否するマスターに、また三男カイトは目を潤ませています。
けれどマスターはそんな三男カイトに気付く余裕もないようで、耳を塞いで顔を真っ赤にしています。
そんなマスターを見て、長男カイトと顔を見合わせて笑いました。
「康って俺たちも呼んでいいですか?」
「なっ……駄目に決まってんだろ!」
「いいじゃないですか。親愛のしるしですよ」
「駄目だ! 呼んでも返事しないからな!」
「ええー」
何だか……なんでしょう。何故かニヤニヤしてしまいます。たかだか呼び名一つでこうも過剰に反応されると、ついからかいたくなりますね。何か嫌な思い出でもあるんでしょうか?
「そ、そんなこと言うとな、今月ダッツ抜きにするぞ!」
「ええー!」
「そんな、名前くらいで横暴な」
「うるせぇ! マスター命令だ! 絶対マスターって呼べ!」
命令してまで康と呼ばれたくないんですか……まぁ本気か分かりませんが、ダッツ抜きにはされたくないので、勘弁してやりましょう。仕方ないですね。
「……あ、でも秋ちゃんって呼んだら、ミクは秋ちゃんさんって呼ぶようになるのかな?」
「さー?」
「そんな風に呼んだらショートカットにするってちびっこに言っとけ」
うわぁ……マスターの目が本気です。本気で怒ってます。

「……康」
ポソ、と油断した頃を狙って小さくそう呼んでみると、マスターはビクッと肩を跳ねさせて僕を睨みました。やっぱり顔が真っ赤です。
恨めしそうにしばらく僕を睨んだ後、
「……ダッツ抜き」
「えぇ!?」
ちょ、あれ本気だったんですか。
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