AKAITOだらけのボカロ一家

□徒然ログ
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大量破壊兵器犬

「というわけで作ってみた」
「はぁ」
何がというわけでなんでしょう。説明も何もなしにそんなことをおっしゃられても、困ります。
……まあ、目の前で尻尾を振る子犬を見たら、説明されなくてもなんとなく分かりますが。
以前あった猫耳だの犬耳だのパンダだのの改良に改良を重ね、擬似的な人工生命を作ってみたそうです。人工生命といっても、物も食べないし出さないし毛も抜けないというものですが。
つまり見た目が似ているだけの、思考パターンを刷り込まれたロボットです。ビーグルによく似た丸っこい子犬を見るととてもロボットには見えませんが。
ちなみにマスターは動物アレルギーなので、毛が抜けない、というところが一番重要らしいです。
「まあぶっちゃけて言うともっふもふにされたかったんだよ! 悪いか!」
「いえ、悪いとは言ってません」
むしろすごくいいと思います。
子犬を見て顔を輝かせ、歓声を上げて子犬と戯れる三男カイトなんてもう、癒されるどころじゃないです。シャッターを切りまくるマスターの気持ちが痛いほど分かります。
動物って、いいですねぇ。
「子犬と一緒に遊ぶカイトも勿論可愛いが……俺にももふらせろー!」
「ふぇー!」
「わふー!」
キャンキャンと吠える子犬も大変可愛らしいです。襲いかかってきたマスターを最初は恐がっていましたが、すぐに慣れてなついています。人懐っこいんですねぇ。
ああ、可愛い。マスターが放り投げたカメラを拾い、この瞬間は後世にまで残さなければならないとシャッターを切ります。
「カイトー、こっち向いてー」
「ふぇ?」
子犬と一緒にキョトンとした顔で振り向いた瞬間を激写します。とっても可愛いです。
「カイト、俺も俺も」
「邪魔です。撮影範囲に入らないでください」
僕が撮りたいのは三男カイトと子犬だけですから。マスターは隅っこでじっとしててくれませんか。
「あぁー……可愛い。もっふもふだ。我ながらもっふもふだ。かーわーいー」
子犬を抱き上げ、思うさまふわふわのお腹に頬を擦り付けて、マスターは満足そうな顔をしています。すみません、なんだか気持ち悪いです。主に顔が緩みきっているところが。
そんなマスターにそんなことをされても、相変わらず元気に尻尾を振る子犬は誰が見ても可愛いです。
「まーすーたーぁー、オレにも抱っこさせてくださいぃー」
「やだ。まだ満足してない」
「やー!」
マスターの袖を引く三男カイトを、マスターは無情にも切り捨てます。三男カイトは頬を膨らませてマスターを見つめています。三男カイトも子犬を気に入ったんですねぇ。
抱っこさせろ、と諦めずにマスターにねだりますが、マスターは頑として子犬を離しません。子犬はマスターの腕の中で純真無垢な瞳を輝かせ、パタパタと尻尾を振るばかりです。
ああ、もうなんかこの可愛すぎる空間をどうにかしてください。あ、マスターは可愛くないんですけど。
「そんなにもっふもふになりたいなら、もう一匹猫がいるからそっちにもっふもふにされろ」
「ねこ! 猫もいるんですかー!?」
わあ、と嬉しそうな声を上げて、三男カイトは家の中のどこかにいるという猫を探しに行きました。
「猫もいたんですか。足音がしないので気付きませんでした」
「猫は足音立てないからな」
三男カイトがいないんじゃ写真を撮る必要もありませんねぇ。カメラをマスターに返します。残念です。
「でもなんで、どこかにいる、なんですか?」
「ああ、起動した途端に逃げられた」
逃げられた、って……何か変なことでもしようとしたんじゃないでしょうね。猫も可哀想に。
「ただ撫でて撫でて触りまくって愛でたいと思っただけなんだけどなー」
「それ思ってるのがバレバレだったんじゃないですか?」
「やっぱり?」
猫が好きで猫に触りたいと思う人ほど逃げられるらしいですね。マスターもきっとその部類だったんでしょう。
幸い犬は撫でられて嬉しいのか、マスターの腕から逃げ出そうとはしません。良かったですね。これで犬にも逃げられたら、マスターは本気で凹んでしまいそうですから。
「僕にも撫でさせてください」
「いいぞ」
僕もそのもふもふを味わいたかったので、マスターの腕の中で大人しくされるがままの犬に手を伸ばします。
すると、途端に犬はマスターの腕から逃げようともがきはじめました。え、まさか僕に触られたくないからとかですか?
「うぉっ!? なんだよ!」
激しく暴れる犬に驚き、マスターが犬を放します。すると、
「くぅーん」
「え? あ、あれ?」
何故か犬は自ら僕の方に飛び込んできました。ものすごい勢いで甘えられ、またパタパタと振られる尻尾は今にも千切れそうです。
あ、嫌われたわけじゃないんですね。良かったー。
甘える子犬は本当に可愛くて、つい顔が緩んでしまいます。マスターが悔しそうな顔をしてますが、すみません、こればかりは子犬のさじ加減だと思いますので、僕にはどうにも出来ません。
「可愛いですねぇ」
「俺のもっふもふが取られた!」
「ふふ、すみません」
ああ本当にもふもふしてます。可愛いです。とっても可愛いです。これはもう愛らしさで人を殺せますよ。
「ところで、名前はなんていうんですか?」
「かいt」
「名前はなんていうんですか?」
「だからかi」
「名前はなんていうんですか?」
犬にまでカイトなんて名前をつけないでください。ますます紛らわしくなります。
犬は何の話をしているのか気になるのか、フンフンと鳴いて僕とマスターを交互に見ています。
「かーいt」
「あ、じゃあ海にしましょう。ねぇ海?」
「わん!」
「かいt」
「海は可愛いですねぇ」
「フゥン」
「……俺が作ったのに」
すみません。でも猫もカイト、なんていう嫌な予感がするので、それは絶対に却下です。
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