@KAITOだらけのボカロ一家

□KAITOだらけのボカロ一家・その2
1ページ/1ページ

KAITOだらけのボカロ一家・その2

こんにちは、またははじめまして、次男カイトです。
先日は産業廃棄物Aにより大変なことになりましたが、すっかり元気になりました。やられていた喉もバッチリ回復です。
しかしながらマスターの暴走を何故止められなかったのか、とても不本意で理不尽だと思います。ああVOCALOIDな体が恨めしい。
僕たちVOCALOIDは基本的にアンドロイド、つまり生体ロボットです。自律思考機能搭載なので、自分で考えて行動することもできます。でもアイザック博士の例のアレで、人に危害を加える行為はできません。うう。ひどい話です。
ちなみに僕たちVOCALOIDに好物があるのは有名な話ですね。僕たちKAITOはアイスが大好きです。ミクはネギ、MEIKOはお酒、リンはミカンでレンはバナナですね。つまり僕たちは飲食も可能ということです。
僕たちを作ってくれた博士は、より感情豊かになり、どんな歌も歌えるようなアンドロイドを作りたかったそうです。だから僕たちは泣いたり笑ったり、怒ったりします。食べ物を食べるというのも感情を育たせる行為の一環です。
美味しいものを食べると人は嬉しいですよね。だからだそうです。沢山美味しいものを食べて沢山嬉しい思いをしたVOCALOIDは、そうでないVOCALOIDと比べて声の質が全く違います。たまに笑顔動画で見かける「ダッツ純正100%で育成したカイト」タグなんてのが分かりやすいんじゃないでしょうか。あ、分かりにくいですか。すみません。
まあつまりです、僕たちは美味しいものと不味いものを感知できる、とても微細な味覚神経を搭載しているということです。技術の進歩は素晴らしいですね。
前置きが長くなりましたが、僕たちは目の前に置かれたドルチェを美味しいと思うことができる、とそういうことを言いたかったのです。すみません。
「美味しいですますたぁ〜! もう死んでもいい……!」
「じゃああと俺が食べるから死ね」
「ふぇぇ!? ひどいよ兄ちゃん!」
「兄さん、意地悪言ったら可哀想だよ」
長男カイト、僕、三男カイトに、それぞれダッツが配られました。おやつの時間なのです。
今日はそれぞれ難しい曲に挑戦していたので、ご褒美の意味を含めてガリガリ君からランクアップです。ガリガリ君のソーダ味も好きですが、やっぱりこのとろける濃厚さとクリーミーながらさっと溶けてしつこくない後味。ダッツの本領発揮も大好きなのです。三男カイトの言い分ではないですが、もう死んでもいいというくらい美味しいです。
言葉の通り三男カイトのドルチェを強奪しようとする長男カイトを慌てて止めると、長男カイトの目が嫌な感じに光りました。
「じゃあお前の頂戴」
「は? そんなの嫌に決まって……」
「兄さんくれるの!? やったー!」
「え」
ちょ、そんなキラキラした目で見ないでくれるかな。や、三男カイトのおねだりを甘く見ちゃいけません。このキラキラとした期待に満ちた純真無垢な目を無視できるのは、氷の心を持った長男カイトか、喜んで意地悪する鬼畜マスターくらいです。
……つまり、逆に言うとこの家でこのおねだりを無視できないのは僕だけ、ということになるのですが。
三男カイトのキラキラと、長男カイトの意地の悪い目に見つめられて、背中を冷や汗が伝います。え、なにこの空気。
「い、いや、やらないよ? これは僕が貰ったものだもの。兄さんたちには兄さんたちのがあるでしょ?」
「んー。まあそうなんだけどさ。ぶっちゃけ足りない」
「だってドルチェ、小さいんだもん」
それ言うなら僕だって食い足りませんから!
そうです。ただでさえダッツのカップは小さいんですけど、ドルチェもスーパーカップとかと比べると半分くらいの大きさしかありません。正直僕だってレディボくらいの大きさのドルチェを食べたいところです。でもそんなの無理って分かってますから。
で、分かってないのが三男カイトで、分かってるのに止めないのが長男カイトですね、はい、その通りです。
「か、カイト、兄さんだって久しぶりのドルチェを食べたいんだ。カイトだって食べられたら嫌だろう?」
「う……うん、いやだ」
とりあえず聞き分けのいい三男カイトから説得しないと。三男カイトを味方につければ、長男カイトだって易々と手を出したりできないはず。
「ね? だから僕だって少ないのを我慢しているんだ。カイトも我慢できるよね?」
「う……うん……」
う、そんなあからさまにしょんぼりしないで。こっちの心がいたんでくる。
「ひっどいなー、カイトは。カイトがこんなにお腹空かせてるのに、分けてあげようっていう優しさは無いのか?」
「じゃ、じゃあ兄さんがカイトにあげればいいじゃないか。可哀想なんでしょ?」
その手には乗りませんよ。三男カイトに分けてあげた後、一人じゃ食べきれないだろ、とか言って長男カイトが横から分捕るに決まってます。
「あ、そう。じゃあカイト、薄情なカイトの代わりに俺が分けてあげよう」
「ふええ!! ありがとう兄ちゃん!」
……あれ?
「酷い話だよなー。いつもあれだけカイトのこと可愛がっておきながら、食い物の話になると意地悪になるなんて、意地汚いぞカイト」
「は!? え、ちょ…」
ちら、と三男カイトを見ると、いつものふわふわした嬉しそうな眼差しが、僕じゃなくて長男カイトに注がれています。
あああ! 選択間違えた!? 間違えましたか僕!
で、長男カイトを見ると、ニヤニヤとした意地悪な笑顔。
「あーあー。意地悪な弟が末っ子に意地悪したから、俺のご褒美無くなっちゃったよ。あーあー」
「兄さん……アンタねぇ……」
そのニヤニヤ笑顔の意味するところは、というと。
「なーカイト、俺の分のご褒美がないんだー。俺、今日一番頑張ったのに。酷い話だ。カイトからも言ってやってくれよ」
「ふぇ? 兄さん、兄ちゃんに意地悪してるの?」
してない。全然してないよカイト。
「駄目だよー。人に親切にしろっていつも兄さん言ってるじゃないか」
「いや、あのねカイト……」
「カイトー。俺もドルチェ食いたいなぁー」
「兄さん」
「う……」
は、嵌められた……
めっ、って感じで三男カイトに叱られて、兄としてそれに逆らい意地悪な姿を見せてもいいものか。
いや駄目だろう。
そう思ってしまう僕の思考ルーチンを完璧に見抜いているあたり、最早流石としかいえません。
「……どうぞ、兄さん」
「お、いいのか? 見直したぞカイトー。なあカイト」
「うん、兄さんはやっぱり優しいね」
えへ、という三男カイトの笑顔だけが、今の救いでしょうか。

……その後、案の定食いきれないだろ、と言って長男カイトが三男カイトのドルチェを分捕っていました。
わんわん泣いている三男カイトを慰めつつ、僕は思います。
ああ僕一口しか食べてないや。
と。


End.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ