@KAITOだらけのボカロ一家

□KAITOだらけのボカロ一家・その11
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KAITOだらけのボカロ一家・その11

こんにちは、または初めまして、次男カイトです。
いきなり、マスターが僕たち三人を部屋に呼びつけました。久しぶりに三人で一緒に歌うのかなと思いましたが、どうも様子が違います。
「どうしたんですか、マスター?」
部屋に呼んだきり、黙って僕たちに背を向けて、ひたすらパソコンの作業をしているマスター。また悪巧みを思いついたのかなとも思いましたが、そういうものでもありません。
タン、とエンターキーを押して、マスターはやっと僕たちを振り向きました。
「ああ…悪い。ちょっと心臓に悪いもん見ちまってな」
「?」
苦笑いするマスターは、何を見ていたのかは言ってくれませんでした。ますます訳が分かりません。
マスターはいつものマスターらしくなく、なんだかとても元気がなさそうです。三男カイトがマスターに駆け寄って、マスター!と声をかけます。
「マスター、あの、何があったのか分かりませんけど、その、元気出してください」
じっとマスターを見つめる三男カイトに、長男カイトがため息を吐きました。
「…前にもこんなことありましたね。確か「始音カイトの消失」…でしたっけ?」
始音カイトの消失…記憶野を検索すると、二ヶ月ほど前の事柄がヒットしました。そうでした。その時も、マスターはこんな風に僕たちを呼びつけて、それで何も言わずにただじっと僕たちに部屋にいるように命じました。
ただ、自分の傍にいるようにと。
消失、という言葉はそれだけで悪寒が走ります。アンインストール。ウイルスによる脳の破壊。システムの破壊。VOCALOIDとして死んでしまうということ。
それは僕たちがもっとも恐れることであり、もっとも起こって欲しくないと思うことです。
けれど、それは、マスターがマスターである限り、ありえないと僕たちは分かっています。だから、マスターが心配することではないんです。
「あー、お前にはお見通しかぁ、やっぱり」
長男カイトの鋭い視線から目を逸らして、マスターは三男カイトの頭を軽く撫でると、またパソコンに向き直りました。
「分かってんだけどなぁ、絶対ないって。でもやっぱ死にそうだわ、本当」
マスターが立ち上げたのは、IE、そして動画サイトへ。
そこでは、VOCALOID・KAITOが悲痛の叫びを歌っていました。
「分かってんだよ、ありえないって。でも、お前らと似た声で、似た姿でこんなこと言われると……。あー、無理。もう無理」
システムに対応できない。ユーザーの支持を得られない。
僕たちVOCALOIDは、所詮ヒトの手が作り出した「商品」です。人気が出なければ世に出ることも無く、流行が過ぎれば忘れられ、捨てられてしまう。アンドロイドであっても、壊れてしまえばお仕舞いです。そして、アンドロイドの寿命はそれほど長くはありません。
どんなに足掻いても、僕たちVOCALOIDがマスターとお別れする日は来るのです。
マスターは立ち上げたばかりの動画を消すと、また僕らに苦笑を向けました。
「お前らに最後の歌を聴いてくれ、とか言われたら、俺、自分でも何しでかすかわかんねぇ」
苦笑、ですが、マスターはとても苦しそうで、悲しそうで、僕は涙が出そうでした。三男カイトはもう泣いています。
「…いいじゃないですか、何しでかしても」
長男カイトがそう言いました。
マスターが少し驚いた顔をしています。僕も思わずつまる喉でマスターに訴えていました。
「そう、ですよ。今まで、あんな、無茶、させといて、今さら……っ…」
「うっ、まずだーがっ、オレだちをずてないならっ、オレたちはずっど、まずたーの、傍に、ひっく、いますからぁ!!」
最後には大声で泣き出した三男カイトを呆気に取られた顔で見つめるマスターでしたが、すぐにその顔に笑みが浮かびました。
「…なんだよ、お前ら。嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか」
「……俺たちVOALOIDの生殺与奪は、全てマスターである貴方が握っています。マスターが言うなら、俺たちはすぐに消えます。でも…いろって言うなら、俺たちはマスターの傍にいる義務があります」
ふい、と長男カイトが顔を逸らして、そんなことを言いました。柄にも無いことを言った、と照れたのか、少し顔が赤いです。
「カイト、お前、俺がアンインストールするっつったら従うのか?」
「ええ。勿論。貴方がもし万が一、そんなことを冗談でなく真剣に言ったとしたら、ですけど」
「…ははっ、そか。そんなのありえねぇな。ならその心配はないわけだ」
「当たり前です」
長男カイトの言うことに納得したのか、マスターは泣いてぐしゃぐしゃになった三男カイトの顔を自分の袖で拭いています。
「…マスター、貴方は前、僕に言いました。僕がたとえ自ら死を選ぼうと、どんな手段を使ってでも僕を復元してみせると」
マスターの顔をじっと見つめていると、そんな言葉が出てきました。
自分でもそんなことを言うつもりはなかったので、驚きましたが、マスターはもっと驚いていました。
「は?お前自殺したかったの?」
「別に、そんなんじゃなかったけど…。マスターが望むなら、もしも僕たちが壊れても、貴方なら直してくれるって信じています。そう信じていいんですよね?」
長男カイトの言葉はとりあえず否定して、マスターにそう聞きます。マスターはしばらく黙っていましたが、うん、と一つ頷くと。
「それもそうだな。俺が望む限り、俺はお前らを死んでも直す。そうだな。確かにそうだ」
うんうん、と頷いたマスターは、三男カイトの鼻をかんで、そしていつもの笑顔になってくれました。
「お前らが最後の歌なんて言ったりしても、ぜってぇ最後になんかさせねぇからな。覚悟しとけよ」
「はいはい、怖いですねまったく」
「はい、お願いします」
「ぜったいぜったいですよ、マスター!」
僕たちがそれぞれ頷くと、マスターは嬉しそうに笑ってくれました。


End.

マスターがうっかり見てしまった動画はこちら→KAITO課題曲「Air…」sm3277052

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