@KAITOだらけのボカロ一家

□KAITOだらけのボカロ一家・その19
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KAITOだらけのボカロ一家・その19

こんばんは、また初めまして、次男カイトです。
年が明ける音が聞こえてきます…除夜の鐘でマスターの煩悩も全て滅殺されるといいんですけど、それくらいで消えるほど浅い煩悩ではなさそうなので無理でしょうね。非常に残念です。
「年越し蕎麦、できたよー」
「わぁーい!」
年越し蕎麦を作るのはもう何度目でしょうか…年が明ける度にこの家に来た年月を数えてしまいます。片手の指を超えて、今は両手の指を越えるのが待ち遠しくなってきます。なんだかんだで、この家で過ごす日々は楽しいですから。
炬燵に入ってテレビを見ていた三人の前に、年越し蕎麦を置いていきます。なんとなく気合が入って手打ちしてしまったので、こんな時間になってしまいました。いつもより遅くまで起きている所為で、三男カイトは眠そうです。でも蕎麦、と聞いただけで目が輝いているのが可愛いです。
いただきます、と手を合わせたところで、108回目の鐘がなりました。とりあえず箸を置いて、新年の挨拶をします。
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「しますー!」
「ああ、よろしくな」
「あけおめことよろー」
それぞれ深々と頭を下げてから、蕎麦を啜ります。結局年明け蕎麦になってしまいました。まあ、いいですよね。
「しっかしアレだな…お前らが来て長くなるなー。今年も恒例のアレはやるから覚悟しとけよ?」
「げ。…俺、なんだか腹痛が」
「そりゃアイスの食いすぎだな。正露丸飲んどけ」
恒例のアレ、と聞いて長男カイトが眉をひそめたのは、つまりそういうことです。
僕たちに振袖を着せて初詣に行くんですよ。長男カイトは女装で外出、更に人が多いところに行く、という三重苦でこれを非常に嫌っています。
僕は別に初詣に行くのは構いませんが、振袖…というのはいかがなものでしょう。外に出るときは人の目が痛すぎるので、一応KAIKOにはなるんですけど、精神的苦痛が減るかというとそうでもないですよね。初詣に行くこと自体はいいんですけどね。普通に行きたいです。
「初詣はいつものところですか?」
「んーん、違うところ。俺だって人の波に揉まれんのは嫌だし」
去年の初詣を思い出したらしく、マスターが顔をしかめます。そういえば去年は近くの神社にいつも通り行ってみると、例年にない人口密度でお参りするのに1時間かかりました。どうやら時間を遅くに行ったのが原因のようでしたが、流石にアレは苦しかったです。振袖と相まって何かの拷問のようでした。
「どこですかー?」
「んー、なんか穴場発見してさ。ちょっと規模は小さくなるけど人は少ないと思う。稲荷神社ってとこ」
「お稲荷さんって、えーと……キツネさんですね!」
「そうそう。良く出来ました」
三男カイトの頭を撫でるマスターに、これも恒例となっている質問をします。返答も想像できますが、一応。
「ところで、実家には帰られないんですか?」
「帰らねぇよ。…お前分かってて聞いてるだろ」
「はい」
頷くと、マスターは嫌そうな顔をしました。まあ、年が明けるこの瞬間に、3体のVOCALOIDに囲まれているマスターに言う言葉じゃないですね。
でも、本当、マスターの実家って気になるんですけど。いつか行ってみたいんですけどねぇ。マスターにはとても可愛い(マスターが言うには容姿だけが取り得、だそうですが)妹さんがいらっしゃるらしいんですよ。妹さんはマスターの趣味が理解出来ない、と言われたら、それは是非お知り合いになりたいと思いました。絶対仲良くなれる気がします。
「今年もいつも通り、お前らと一緒に年越して、雑煮食って、初詣行ってお仕舞いだよ。それが一番の俺の幸せ」
「元旦を過ごす相手がVOCALOIDだけ、って……マスターって寂しい人ですね」
「うるせぇ。俺の好きなようにやってんだからいいんだよ」
長男カイトの頭を軽くどついて、マスターはそう言います。幸せな人ですねぇ…お手軽というか、なんというか。
「あ、そうだ」
思い出した、という風にマスターが言った言葉に、三男カイトが反応します。
「なんですかー?」
「初詣、KAITOのまんまな」
「はぁ!?」
「ええ!?」
何気なく言われた言葉に、蕎麦を噴き出しそうになりました。
な、なんでですか!嫌ですよ!KAIKOだから今まで耐えられたのに!
「ふへー。なんでですか?」
「ん?人少ねぇから、別に平気だろ?ちなみに拒否権はねぇから」
「そうなんですかー。初めてですねー」
まったく動じていない三男カイトが羨ましいです……。うう、僕は無理です。どうしても拒絶反応が。長男カイトに至っては、既に死に掛けているような顔です。っていうか魂抜けてます。
「さ、サイズがないですよ。無理ですって」
なんとか僕と長男カイトの心の安穏のためにも、そう抵抗します。が、マスターは分かっていたようにさらっと反撃してきました。
「心配すんな。ちゃんとオーダーメイドで仕立てたやつだから」
「い、いつのまに!?」
「あー?一昨日くらいに届いてたのに、気付かなかったか?」
意地の悪い笑顔を恨めしく思いつつ、記憶を辿ると、確かに2日前、やたらと大きい宅配物が届いていました。マスターが笑顔で配達の人と受け答えしていたのが印象的でしたが、あの笑顔はそういう意味ですか……なんてことですか!馬鹿!
何が悲しくて男のまま女性物の着物を着て外出しないといけないんですか……泣きたいです。
「大丈夫大丈夫、似合うってきっと」
「それはアンタ基準でしょう!?絶対嫌ですよ!そんなの!」
「……マスター…俺、死んでもいいですか」
「大げさだなお前ら。俺的には女体化の方が嫌だと思うんだが」
「世間一般の目を考えたら、女装と分かる女装の方が嫌ですよ!」
「……俺はどっちも嫌なんですけどね……」
「えー? オレ、別に平気ですよー? 可愛くしてくださいね?」
ニコニコ、と笑う三男カイトが眩しいです。ど、どうしてそんな言葉が出てくるんでしょう。絶対妖精の類です、同じKAITOとは思えません。
長男カイトと顔を見合わせて、深いふかーい溜息をつきます。今年もどうやら例年通りのようです。
「任せとけ、別嬪にしてやるから」
「楽しみですー」
二人の会話が遠いです…直ぐ隣と直ぐ向かいに居るのに、彼我の距離を感じます。
「兄さん……頑張ろう……」
「……あ、なんか本当に腹痛が…」
「正露丸飲んどけ」
マスターは新年早々、いつも通り鬼畜です。
折角年が明けてめでたいんですから、楽しい気分のままでいたかったんですけどね。まあ、マスターに期待した僕が馬鹿でした。



明けまして、おめでとうございます。
   KAITOだらけのボカロ一家一同

End.

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