毛利さんちのボカロ一家

□徒然ログ
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白い息

VOCALOIDでも、吐く息が白くなることはあるらしい。
仕事帰り、駅まで迎えに来てくれたカイトと一緒に、家まで歩く。先日まで雪が降っていたことを考えると、まだ寒くなる日があってもおかしくないもんだ。
一年中マフラーを着けているから、寒がりなのか、と聞くと、私たちは気温の影響を受けません、だと。
マフラーを着けているのは単に習慣だというだけらしい。アイスが好きなのも同じような理由だそうだ。
なら、なんで息は白いんだろう。
試しに手を握ってみると、機械か、というくらい冷たくて驚いた。ああそういえばコイツは機械だった、と思い出す。人間のようだからいつもは覚えてもいないが、ふとこんなときに思い出して少し寂しくなるもんだ。まったく、世の中も難儀なものを作ったもんだと思う。
機械なのに、人間と同じ心があるし、見た目も人間と変わらない。少し髪の色が派手だったりするだけだ。アンドロイドが溢れかえっている今じゃ、その髪の色も目立つようなものじゃない。特にカイトは暗い青だから、今みたいに夕方じゃ俺の髪の色と変わらない。まったく、どこからどう見ても人間だ。
そうしていると、カイトが固まっていることに気づいた。
「どうした?」
「あっ!い、いえ、なんでもありません……」
なんでもないって顔じゃねぇぞ。どうしたんだろうか。
「あ、あの、マスター……手を」
「手?あ、わりぃ」
握ったままだった。こりゃ端から見たら変な光景だな。恥ずかしかっただろう。気づいてなかった。すまんすまん。
放してやると、カイトはそれきり俯いて黙ってしまった。なんだ、黙られると分からん。そんなに嫌だったのか?悪いことしたな。
「嫌だったか?ごめんな」
「い、いえっ!嫌とか……そんなことじゃなくて……」
それきり、まただんまり。
まあ、嫌じゃないなら良かった。そんな黙り込むほど嫌だったのかと若干凹んだからな。
「あ、カイト、アイス屋だ。寄ってこうぜ」
「え、いいんですか?」
「おう、迎え来てくれたお礼な。メイコとミクには内緒だぞ?」
バレたらネギと酒をしつこく要求されるからな。そう言って人差し指を立てると、カイトはやっと笑ってくれた。そうそう、そうやって笑ってろ。
普段は遠慮してるのかアイスをすすんで食べようとしないが、それでもやっぱりカイトはアイスが好きみたいだから、二人きりのときくらいご褒美をあげたいんだよ。
「マスター、ありがとうございます」
「いいってことよ」
こんな息が白くなるような日にアイスってのも変な話だけどな。カイトが喜ぶならそれでいいだろ。
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