毛利さんちのボカロ一家

□徒然ログ
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カイトとお風呂 毛利編

VOCALOIDが風呂に入れるのは知ってたが、入り方を知らないというのは予想外だった。どうやら入らなくても支障はないので、その分のプログラムを組むのをケチったらしい。
お陰でそう広くもない風呂に男二人で入るという笑えない状況になっている。寒い。寒すぎる。主に心が。
ああいい湯だよホント。あーあ。ちきしょう。
一度目の前で実践してやったので、カイトは特に戸惑うことなく頭を洗ってる。シャレで買ってきたシャンプーハットを使う必要もなさそうだ。
その様子を眺めつつ(他にやることもないので)、はー、と長い息を吐く。
あー、できるならカイコと……いやダメだな。それはなんかダメだな。っていうか絶対ミクたちに見つかったら大変なことになる。毛ちゃんヘンタイ、と三日三晩言われ続けることだろう。それはキツい。
何より俺の理性がもつか自信がない。裸の女の子と風呂に入って何もしなかったら、そいつはよっぽど強靭な理性を持ってるか、もしくはただの役立たず、またはあれだ、ホモだ。
生憎俺はどれでもないので、カイコと風呂に入ったらもれなく襲う自信がある。それが元カイトとか関係ない。そんなもんだ男ってのは。
はー、とまた息を吐く。ため息を吐くと幸せが逃げるとかなんとか言うが、ため息をついてる時点で幸せってわけじゃねーと思うんだ。
まあ今の俺が不幸せだとは言わねーけどさ。
「マスター、髪を洗いました。次はどうするのですか?」
「おう、まずは頭の泡を流せ。話しはそれからだ」
「え、あ、……す、すみません」
頭が泡だらけのまま振り向いたカイトは、俺の言葉に慌ててシャワーのコックを探して手をさ迷わせた。
コックを掴んだカイトは一気にひねってしまったらしく、勢いよくお湯を被っている。慌てている様子はなんか可愛い。初々しいっつーかなんつーか。
「あーじっとしてろ。流してやる」
「す、すみません……」
無駄に水が流れ続けるばかりで全く泡を流せていない。一度シャワーを止めて、ノズルを手に取る。背中を丸めたカイトの後ろから、泡を流すようにシャワーをあてる。髪の毛に手を触れると、カイトの体が盛大に跳ねた。
「おい、じっとしてろ」
「は、はい……」
しかし泡を流している間にもカイトの体は小刻みに震えている。洗いにくいな。
流れていった泡を追って、首筋から背中にもシャワーをあてると、またカイトはビクッと震えた。
「動くなって」
「す、すみません…………ひっ、」
「こら」
「……あぅぅ……」
そんなことを繰り返し、やっと全部の泡を流し終える。
「水道代なめんな。大事に使え大事に」
「は、はい」
いや正味な話。シャワーを甘く見たら痛い目見るぞ。主に月末の俺が。
「次は体な」
スポンジに石鹸を擦り付けて泡立たせる。これまたシャレで買ってきたクマさんスポンジは、なんか妙にカイトに似合う。
「これで体を擦って汚れを落とすんだ」
「分かりました」
クマさんスポンジで嬉しそうに体を洗うカイトを見てると、なんかアレだ。三才かそこらのガキに見える。あながち間違っちゃいねぇけど。
「背中に手が届きません……」
「仕方ねぇな」
後ろに手を伸ばすが届かずに悪戦苦闘するカイトからスポンジを受け取る。あーでもなー。
スポンジを背中につけると、カイトからか細い悲鳴が上がった。さっきのシャワーのときみたいな感じで。あーやっぱりなー。
「あっ、……ま、ますた、……あの、」
「大丈夫だから力抜けって」
「はい……」
背中洗うだけなのにカイトの肩は強張っている。肩をぺち、と軽く叩くと、カイトは力を抜く努力はしているらしい。全く実っちゃいねぇだけで。
「お前はアレか。風呂は一人が良い派か?」
「ふぇ……? いえ、分かりません」
ここまで緊張されるとなんだかなぁ。そう思って聞いてみたが、カイトは緩く首を振った。
「……はっ、じゃあもしや俺と風呂に入るのが嫌なのか!」
「えぇっ!? ちっ、違います! 全然嫌じゃないです!」
「あそう?」
「はい」
「おー、なら良かった」
話してるうちに背中は洗い終わった。嫌じゃないとは言われたが、俺が離れた途端ホッと息を吐いてるのを見るとスゴい複雑な気分になる。やっぱり無理してんのかな。まあ、入り方覚えたら一人で入れるようになるし。それまでの我慢だからな。
……嫌なのかなぁ。俺は別に嫌だとは思っちゃいねぇんだけどなぁ。寒いとは思うけど。ちょっと悲しいなぁ。
さて体を洗い終わったカイトと、あらかた教えて温まった俺。手を見ると若干ふやけていた。
「じゃあ俺もう上がるわ。あとは泡流して暖まるだけだから。分かるか?」
「はい、大丈夫です」
「逆上せる前に上がれよ、お前も」
「はい」
これでカイトも必要なときに一人で入れるな。良かった良かった。もっとこう、タイルで足を滑らせるとか、湯船で溺れるとか、お湯じゃなくて水を被るとかするかと思ったが、そんなことは無かった。うちのカイトは手間がかからない良い子だよ、本当。
湯船から上がると、それまで俺に向き合っていたカイトがさっと顔を逸らした。顔が赤い。もう逆上せたんだろうか。
「んだよ?」
「い、いえ……なんでもないです……」
なんでもないって。そんなに真っ赤になってなんでもないはないだろう。逆上せたなら一緒に上がった方がいいか。そういえば風呂入る前、カイトにもあまり高温多湿の場所に長時間いるのは控えた方がいいとかなんとか言われてたしな。長風呂するとオーバーヒートするんだろうな。
「お前も上がるか。あんまり湯船には入らないほうがいいんだろ?」
「ええ、まあ、その……そうなんですが、あの」
もごもご。すっきりしないからもっとはっきり言え。
そうしている間にもカイトはますます赤くなってる。おいおい。本当にやばいんじゃないか? 大丈夫かマジで。
「あの、えっと……マスター、」
「ん?」
「…………タオル、取れてます………」
「あ?」
下を見ると、腰に巻いてたタオルが外れて、湯船に浮いていた。おお、失敬失敬。まあ見られても別に構わん。男同士だし。
「……あの、………タオル巻いてください……」
「ああ?」
なんで。別にいいじゃんこれくらい。
湯船にタオルつけるのはよくないからタオルは取るけど。んー、ああそういえばこれ、もともとカイトに巻いてください、ってそりゃもうすごい言われたから巻いたんだっけか。俺は別に気にしないからなんでだって思ったけど。
「は……恥ずかしいので……お願いします…………」
「? でももう上がるし」
「お願いしますっ」
「お、おお。分かった」
カイトはもう顔が赤い上に目もなんかうるうるしてる。そ、そんなに嫌だったか? っていうかお前にも同じもんついてんだろうが。何が恥ずかしいんだ?
よく分からんなぁ。とりあえずタオルを巻く、と、カイトは赤い顔のまま複雑そうな顔をしていた。表現するのはなんかちょっと難しい。あえて言うならダイエット中の女が食べちゃダメ、食べちゃダメ、と念じていたケーキとかを目の前であー食べないのー?ならちょーだーい、と掻っ攫われたときのような顔だ。難しいな。
まあとにかく、これ以上温めると大変なことになりそうだから、カイトも上がらせるか。うん。
「ほら、上がるぞ」
「あ、はい」
慌てて残っていた泡を洗い流し、カイトが俺を追って立ち上がる。慌てたからかなんなのか、そこでカイトはつるりと足を滑らせた。
「ひゃっ、」
「おい!?」
カイトの後ろには蛇口。やべぇ! と思って咄嗟にカイトの腕を強く掴んで引く。軽い体は俺の方に引っ張られ、俺の胸にすがり付いてくる。なんとか転倒は免れた。危ねぇな、全く。
まあでも、しっかりしてるカイトでもこんなところもあるんだな。ちょっと可愛いじゃないか。全く手がかからないより、少しは困らせてくれた方が可愛げもあるってもんだ。
「大丈夫か?」
「はっ、はい……すみません」
「いいってことよ」
それより今度から気をつけろよ。泡がついたタイルは想像以上にすべるからな。
これ以上すべられたら危険なので、抱き上げたまま風呂の外に出す。カイトが盛大に悲鳴を上げてたが気にしないコトにする。
「ま、ますたー……恥ずかしい……です………」
「気にすんなよ」
「無理です………」
「また転ぶぞ?」
「もう転びません」
「どうだかなー」
「…………マスター、……」
心底困りきったように眉を下げるカイトが可愛い。うん、可愛い。これがカイコだったらもう問答無用で滅茶苦茶可愛いんだろうが、まあ親の欲目というかカイトはカイトのままでも結構、いや十分可愛い。
……俺も随分感化されたもんだな。はー……
まあ、いいか。
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