デスクトップカイト物語

□デスクトップカイト物語・その4
2ページ/4ページ

仕事が一段落ついたところで、丁度休憩のチャイムが鳴った。ぐん、と背伸びをして、首を回す。コキコキと気持ち良い音を響かせるので、あー凝ってるなー、と苦笑する。
作ってた資料を保存して印刷ボタンを押す。コーヒーでも買いに行くかと席を立ったところで、先輩に声をかけられた。
「松澤くん、ちょっといい?」
「あ、はーい」
俺より年上の女性の先輩の手には、今度のプレゼンの資料があった。
うわ来たよ、と若干苦い思いで先輩の呼び出しに答えると、途端に先輩は綺麗な顔を綺麗な笑顔で形作って、俺に優しく言った。
「この馬鹿、なんなのかなこれは?」
「う」
バス、と資料を強く押し付けられる。恐る恐るその内容を見ると、詳しく見るまでも無く欠陥が分かった。印刷の向きが逆だったのだ。
「分かってんの? プレゼンは明日よ明日。それまでに資料作っとけって言ったでしょ、なんなのこれ。何部刷ったか分かってんの?」
「はい……」
俺の記憶が正しかったら確か15部ほどだったような。また印刷し直してホッチキスで止めなおして、と他にもやることが山ほどあるのに自分で仕事を増やしてしまった。やってしまった。
笑顔で怒っている先輩に、こちらも冷や汗をかきながら笑顔ではい、はい、と言われるままに頷いて頭を下げる。
「わかった? じゃあ今日残業よろしくね」
「う。はい……」
ああ、今日はカイトの相手してやりたかったのに。この調子じゃ少し難しくなりそう。あーあ。
最後にまたにっこりと笑って、先輩は自分の席に戻っていった。と、同時にまたチャイムが鳴る。休み時間さえ自由にならないって苦しい、まあ、自業自得なんだけど。
仕方なく今日の予定に資料のやり直しを組み込んで、頭の中でスケジュールを組み替えていく。
沈んだ気分になったところで、カイトの笑顔を思い出して、気持ちを持ち直す。いやいや、くじけるのはまだ早い。家で俺の天使が待っててくれてる。なら俺に出来ることはただ一つ、仕事を早く終わらせて、一刻も早くカイトに会うことだ。
それだけを考えて死に物狂いでどうにか定時で帰れないかと頑張ってたら、隣の席の子からセンパイ頑張ってますね、とからかわれた。ああ、俺は頑張ってる。頑張るのは悪いことじゃない、良いことだ。だから笑われるようなことじゃない、多分。
そんなこんなで俺は気づかなかった。メールを受信した、っていうポップアップに。
そんでそのメールがどんなもんで、また家に帰ったらどうなるかっていうのを。
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ