AKAITOだらけのボカロ一家

□徒然ログ
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動物園

夕飯の後、三男カイトとテレビを見ていると、マスターがやって来ていきなりチャンネルを変えました。
「あっ、何するんですか」
「いいからいいから」
見ていたチャンネルが切り替わり、僕はマスターに抗議しました。
しかしマスターは「特に見たくて見てたわけじゃねぇだろ?」と言って、全く悪びれた風もありません。確かにマスターの言葉通りですが、その態度は少し癪に障ります。
けれど、そんな僕の苛立ちも、三男カイトの歓声によってすぐに消し去られました。
「かわいー!はぅ……かわいーですねぇ」
画面を見ると、動物の赤ちゃんが哺乳瓶からミルクを飲んでいました。必死に哺乳瓶に噛み付いている姿は、確かにとても可愛いです。
「いーなぁ……オレも動物飼いたいです」
画面をじっと見たままそう零す三男カイト。その言葉に、もし動物を、例えばそう子犬なんかを飼ったとしたら。
三男カイトと子犬が仲良く戯れる光景を想像して、無駄に動悸が早くなりました。そ、そんなの可愛すぎるじゃないですかぁぁぁ……!
「ハァハァスンナー。ま、うちで動物飼うのは無理だからな。マンションだし、俺アレルギー持ちだし」
呆れたようにそう言われ、ついでに平手で頭をぺちんと叩かれました。ああ、すみません。お見苦しいところを。
しかしそうは言うものの、マスターって動物大好きなんですよね。飼えるものならとっくに飼っているということを、前に聞いたことがあります。問題はマンションの規約云々というより、マスターのアレルギー体質の方らしいですが。
マスターのアレルギーは相当酷く、外で犬や猫を見かけると遠くから眺めて可愛い可愛いと言うくらいしか出来ないほどです。近くに寄ると途端にくしゃみと鼻水が止まらなくなってしまいます。マスターがアレルギーじゃなかったら……僕も動物は大好きなので、そう思うこともありますが、こればかりは仕方がありません。
「見るだけならこんなに天国なんだけどなー」
画面の中で動物が可愛いアクションをするたびに、三男カイトと一緒に歓声を上げるマスターは、本当に動物が大好きです。
マスターがめざましテレビのあのDVDだとか、動物雑誌だとかを隠し持っているのを僕は知ってます。掃除中に見つけてしまいまして。掃除そっちのけで堪能していたら、マスターにバレて怒られました。そんなに恥ずかしがらなくても、マスターが動物好きなのは知ってるんですけどね。
「ぱんださんもかわいいですねぇ……あ、あー!に、逃げてー!ちょう逃げてー!」
「うわぁ……ああでもいいなぁ……」
画面の中で子パンダ数匹と遊んでいた女性が、いつのまにかオモチャと認識されたらしく登られたり噛まれたりしていました。ああ、痛そうです。でもパンダまみれでちょっと羨ましいです。毛がふわふわしてるんでしょうか……柔らかいんでしょうか……女性も噛まれているのに笑顔ですし。いいなぁ。
「僕もあんな風にパンダたちに囲まれたいですねぇ」
そう言うと、マスターがこっちを凝視してきました。え、なんですか?僕、そんなに変なこと言いましたか?
「パンダに囲まれたいか、そーかそーか」
「へ……? な、なんですか?」
はぁ、まああんなぬいぐるみみたいな生き物に囲まれるなら嬉しいんですけど。その邪悪すぎる笑みはなんなんですか。
「よし、お前の願い、叶えてやろう」
「ええ?」
どうやって?動物に触るどころか近づくことすら出来ないマスターが、どうやって僕をパンダまみれにしてくれると言うんでしょうか。なんだかとっても嫌な予感がします。
「カイト、カイトの願いを叶えるため、ちょっと協力してくれないか?」
「ふぇ?なんですか?いいですよ」
「よーし」
ちょっと待ってろ、と言って、マスターは三男カイトを引きずって行きました。1人残され、首を傾げるしか出来ません。
パンダまみれにするのに、どうして三男カイトの手伝いが必要なんでしょう。ますます嫌な予感がします。僕の第六感的な何かが今すぐ逃げろと言ってきます。
けれど、逃げるにしてもどこに?
そうやって悶々としていると、マスターが戻ってきました。
「は、早かったですね?」
「おう。ほーれパンダだぞー」
「へ!?」
そう言ってマスターが僕に向けて、何かを放り投げてきました。
いや、何かというか。
「ちょ、カイト!?兄さん!?」
放り投げられて床にすごい音をさせて不時着した2人が、それぞれぶつけたところをさすっています。涙目です。
「だ、大丈夫……?」
そっと、とりあえず三男カイトの頭を撫でると、三男カイトにその手をガシッと掴まれました。
「え?」
三男カイトは不思議そうな顔で掴んだ僕の手をじっと見て、そして何を思ったのか噛み付いてきました。ええー!?
「ちょっ、痛いってカイト!あ、わぁっ!?」
三男カイトに気を取られていると、長男カイトが僕の背中に頭突きしてきました。そのまま肩に手を掛けられ、重みに耐え切れずに前に倒れると、長男カイトは僕の上によじ登ってきました。えええー!?
「え、なに!?重いんだけど!?」
相変わらず三男カイトは僕の手に噛み付いたまま、長男カイトは僕の上によじ登ったままです。長男カイトの手か三男カイトの手か分かりませんが、頭をバシバシと叩かれて痛いです。なんですかこれ。なんなんですか。
「ちょっとマスター!?何したんですか!?」
ニヤニヤ笑ったままカメラを構えて激写しまくるマスターに文句を言うと、マスターは文句を言われるのが不満、という顔をしました。
「んだよ、お前がパンダまみれになりたいって言ったんだろうが」
「これのどこがパンダですかー!?」
「そりゃ勿論頭の中が」
自分の頭を指先で叩いて、マスターがそう笑います。またですか。アンタまたですか!
「いい加減、僕たちの頭を弄るのはやめて下さい!」
「いーじゃん別にー。可愛いもんだろ?」
言い争っている間にも2人は僕の上に登ったり、叩いたり、噛んだりしてきます。
こういうのはぬいぐるみのように可愛いパンダがするから可愛い上に笑い事で済むんであって、僕と全く同じ体格の2人にされても普通に痛いし重いだけなんですけど!
「いいから元に戻してください!っていうか見てないで助けてくださいー!」
「カイトまみれー。うはー、さっきのパンダよりたまらん」
「この変態ー!!」
結局、僕が疲れきって動けなくなるまで、マスターは助けてくれませんでした。マスターのドS!馬鹿!変態!
「コレクションが増えた。ありがとなー」
「礼を言われる筋合いなんかありません……」
動かない僕がつまらなくなったのか、2人は別のものに興味を移して僕の上から退いてくれました。ああ、潰されるかと思った。
なんでパンダに囲まれたいと言っただけでこんなことになるのか、全く不思議でなりません。一体何が起きたんですか。主にマスターの頭の中で。
「ちゃんと元に戻してあげてくださいね……」
もう指一本動きませんが、それだけは言っておかないと気が済みません。マスターは僕の言葉に頷いて、
「勿論。元に戻した後、これ見てどんな反応すんのか興味あるし。一粒で二度美味しいなー♪」
「……………」
マスター、アンタどんだけ鬼畜ですか。いや分かってましたけど。
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