@KAITOだらけのボカロ一家

□KAITOだらけのボカロ一家・その4
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ね、変態でしょう?
ちなみについさっきのことです。ああ忌々しい。
皆さんこの後アーッ! な展開を予想されたかもしれませんが、ご期待に沿えず申し訳ないことに全力で逃げてきました。
……なので未だにメイド服です。俺の他の服が無いどころか、カイトたちの服まで消えてます。サイズが同じだからって俺が着替えるのを阻止しようとしたのか、はたまたカイトたちにも着せるために先手を打ったのか。多分両方ですね。
ああくそっ、足元がスースーする。こんな服はKAIKOにでも着せればいいんですよ。男のままで着たって気持ち悪いだけじゃないですか。何考えてんだ、あの変態。
「いやぁぁぁああぁ!?」
……なんだ今の悲鳴。ちょうどマスターの部屋から聞こえてきたみたいですけど。
「や、ちょ、やめてくださいマスター! 触らないで下さい! 嫌です! バカ! 変態! 死ね!」
…この声は次男カイトですね。それにしてもマスターに向かって死ねとはまた物騒な。丁寧に死んでくださいと言うのが正しいでしょう。
「や、だ! 、っつってんでしょうがこの変態眼鏡が!」
「ふ、鬼畜眼鏡の次は変態眼鏡か。うまいこと言うなぁカイト、いやメイドさん」
「気持ち悪いこと言わないで下さい! いいから元に戻してくださいよぉ!!」
「やだね。満足するまでそのままに決まってるだろう! そして俺を手っ取り早く満足させたいならどうすればいい!?」
「い、いい、いやぁぁぁあぁ! 誰かこの変態再起不能にしてぇー!!」
…大体事情は把握しました。というかついさっきまでの俺とまったく同じ展開じゃないですか。
これは助けた方がいいのかそうでないのか。助けたら恩も売れるしいいことではあるんですが、正直マスターに太刀打ちできる自信はないっていうか近寄りたくないです。どうしましょうか。
「あれー? 兄ちゃんどうしたのー?」
お、いいところに。
「ってそのカッコどうした」
「あははー、兄ちゃんこそ変なカッコー」
屈託なく笑うバカイトがなんとなくムカついたので、その眉間にデコピンを一発。
額を押さえて呻くバカイトに、少し溜飲が下がりました。
「い、いったぁ! 何すんの!」
「うるさい。で、なんだその格好は。大方予想はつくが」
「ああこれー? さっきさー、マスターに着てくれって頼まれたからさー。可愛いー?」
くるり、とその場で一回転するバカイトのスカートの裾が、ひらりと舞い上がってあまり嬉しくないチラリズムが見たくなくても見えました。
なのでもう一発デコピン。
「あいった! あ、あう〜! 痛いじゃんかー!」
「当たり前だ、このバカイト。見たくないもの見せるんじゃない」
バカイトの格好は、まあ一言で言うとセーラー服というものでした。紺色の生地に赤のラインが二本入り、胸元のスカーフが後ろから三角になって見えている、なんというか古風というより古臭い、と言った方が正しいデザインですね。
「えぇー! 可愛いってマスターは褒めてくれたのにー。ぱんつさんぜんえんで買ってくれたのにー」
「は!? お前何売ってんだ馬鹿!」
「わぁ! もう痛いのやだー!」
怒鳴った俺に、次の行動を呼んだらしく額をガードするバカイト。生意気な。
っていうかブルセラとか犯罪ですよマスター。VOCALOIDに対する擬似的なものとはいえ、とうとう金を出すまでやるとは。
変態も堕ちるところまで堕ちたと思っていいんでしょうかね。
「まあいい、マスターの変態度が二段飛ばしでレベルアップしたとしても関係ない。おいバカイト、ちょっとマスターの部屋行って遊んでもらって来い」
「えぇー? なんでー?」
「いいから行け。カイトがいるけどカイトは他にやらなきゃいけないことが山ほどあるから、代わりに遊ぶって言ってな」
「え? えっと……………うん、分かった」
なんだ今の三点リーダは。
少し間が気になりましたが、まあいいでしょう。バカイトが行って場をかき回している間に変態からカイトを救えば問題なしです。
で、ご褒美に俺はカイトからダッツを貰えると。
まあそういうことですね。
え? いつも何だかんだ言って結局奪い取るくせにって?
気にしたら負けですよ、そこは。
「おら行って来い」
「うわっ! わ、わかったよう…」
尻を蹴飛ばすと、バカイトは肩をすくめてマスターの部屋に向かっていきました。
そして勢いよくドアを開けて、部屋に飛び込んでいきます。
「か、カイト!?」
「マスター! 遊んでー!」
「ぬおっ!? よーしいいぞ何して遊ぶ!?」
「えーと、えーと……なんでもいいです!」
よしよし、いい感じにマスターの気を引けたみたいですね。バカイトもたまには役に立つものです。
で、カイトを連れ出すには……と。
「何でもいいかー……。よーしじゃあ一緒にカイトの衣類を剥ぐ遊びをしよう!」
は!?
「へ……ちょ、ちょっとマスター!? 何言ってるんですか!」
「わー! 楽しそう! 一緒にお着替えするのー?」
あ……やっぱりバカイトは馬鹿だ。
無邪気に喜ぶその様子から察するに、いつも忙しくて遊んでくれないカイトと遊べると知ってワクワクしているようです、ね。
……あのバカイトが!
「よーし俺は上から行くからお前は下のスカートを狙え!」
「えぇぇえぇ!?」
「りょうかーい!」
「ちょぉぉおぉ!!」
ドタンバタンという部屋からの物音が、カイトの奮闘ぶりを知らせます。
ああ……可哀想に(他人事)。
いやいや、流石にこのままというのは俺の良心に反します(建前)。ダッツももらえないだろうし(本音)。
バカイトが俺の予想を上回る馬鹿だったのは計算違いにしても、新しい計画を立てればいい話です。
「マスター」
意を決して部屋のドアを開けると、半裸のカイトとそれを追っかけまわしている変態と馬鹿が二人。
駄目だこいつら早く何とかしないと。
「おぉ!? メイドさんの二大競演!! カイト、早く! シャッターを切れ!」
「あいあいさー!」
「やめなさいっての!」
俺はすかさず内臓のカメラで写真を撮ろうとしたバカイトの頭に踵を落としました。パンチラなんてこの際構うもんか。どうせ下着はいつもと同じだし。
「ああ! ちょっとカイト!? アンドロイドは精密機械だって分かってる!?」
「ああそういえばそうでしたかねぇ」
マスターのヒステリックな声に、そ知らぬ声ですっ呆ける。分かってますよ、俺だって壊れない程度に手加減はしました。
「あいたたた……ひどいよ兄ちゃんー!」
「酷いのはお前らの頭の中身だ、この変態に馬鹿が。それにバカイト、このカイトの様子を見てみろ」
「ふぇ……?」
バカイトと一緒にカイトに視線をやると、そこには俺の後ろに精一杯隠れて目に涙を溜め、ふるふる震えているカイトが。
「に、兄さん! え、えと、あの、泣かないでー!」
「ほら、お前がマスターと調子に乗ってカイトを苛めるから、カイトがこんなに怯えてるんだぞ!」
カイトがバカイトを溺愛したのに比例するように、バカイトもカイトに懐いています。そこを利用しない手はありません。
しょぼくれて大人しくなったバカイトは、まあ素直で良い奴ではあるんですよね。ただ頭が壊滅的に悪いだけで。
「分かったか? 分かったらお前は大人しくマスターと歌でも歌ってろ。行くぞ、カイト」
「おっと、そうは行かないぞ!」
カイトの腕を掴んで部屋を出て行こうとすると、マスターが俺の腕を掴んできました。ちっ。
「何ですか変態」
「マスターとすら呼んでもらえないのか!? まあ待てカイト。確かにカイトが怖がってるのは悪かったと思う。だけどな、普段忙しい兄貴と久しぶりに遊んでもらえると思って我を忘れたカイトを、お前は責めるのか?カイトはただ純粋に嬉しかっただけだ。少し度が過ぎたけど、そこがまたカイトの可愛いところだろう? そうだろう?」
「え?」
バカイトが可愛いなんて、本当片手の指で数えれるくらいにしか思ったことのない俺に、この人は一体何を言っているのか。
いや待て。この言葉は俺じゃなくてカイトに向けてじゃないですか、もしかしなくても。
案の定、カイトはマスターの言葉に乗せられてうろたえています。カイトの人の良さは確かに美徳だと思いますが、たまに欠点ですね。面倒くさい。
「で、でも……こんな格好恥ずかしいし、それに、こんなのカイトの情操教育にも悪いです……」
カイトが頬を赤らめて自分の格好を見下ろし、それからマスターをじっと見ます。
「……僕だって、カイトと遊んであげたいです。でも僕にはやらなくちゃいけないことが沢山あって、中々遊んであげられない。カイトに寂しい思いをさせて、ごめんって思ってます」
また目がうるうるしているカイトは、どうやらお兄さん&お母さんスイッチが入ってしまったようですね。こうなるともうバカイトのことしか頭にないはずです。
……嫌な予感がしてきました。
「ああ、それは俺もわかってる。だからな、いい適役がいるじゃないか」
「……?」
マスターがつつつ、と視線を俺にやると、カイトもそれに従って俺を見る。
ええそんなことだろうと思ってましたよ、畜生!!
「ほら、兄貴はもう一人いるだろう? お前が忙しいときに、カイトの面倒を見てやるように言ったらどうだ」
「……兄さん」
その訴えかけるような目をやめろ。俺はマスターの腹黒い笑みよりバカイトの純粋な笑顔より、その上目遣いに何より弱いんだよ! わかってんのか! 分かってないんだろ! くそ!
「あの、カイトと遊んであげてくれないかな。兄さんが本を読む時間を邪魔したいわけじゃないんだけど、でも、カイトも一人じゃ寂しいと思うんだ。駄目?」
駄目に決まってる。なんで俺がバカイトの面倒を見なけりゃいけないんだ。
そう言いたいのに、カイトにじっと見られるとなんでか言葉が出てこなくなる。
……まさかマスター、俺も自覚してなかった弱点を見抜いた上でのこの戦略ですか。いい根性してやがりますね。
「……やっぱり、駄目かな」
急にしょぼんと肩を落とされても、俺は嫌だ。絶対に嫌だ。馬鹿は変態に任せとくに限る。
特に、今この場では。
最早自分の格好すら気にならないのか、カイトは家族問題を考えるお母さんのようなことを考えているようです。
違う! 気付けカイト! 今さっきの嫌な記憶を忘れたのか! マスターは単にお前を懐柔して俺を生贄にしようとしてるだけだ! 気づけ!
「兄ちゃんが遊んでくれんのー?」
のほほん、とした嬉しそうな声が聞こえて、ありもしない血管が切れるかと思いました。くそっ! お前らはどうしてそう目先のことに目がいくんだ。もっと全体を見ろ! 引きで! ロングで!
「よし、カイト。マスター命令だ。カイトが家事をしてる間、お前はカイトの面倒を見ること!」
「えええええ!!」
き、強権発動ですか……。そこまでして剥きたいんですかメイド服。この変態め!
しかし、マスターの言葉にすっかりはまってしまったカイトは、その命令にむしろ喜んで顔を輝かせ、マスターにお礼を言っています。
バカイトも、カイトと同じで滅多に相手にしない俺が遊んでくれると知って、喜んでいます。
そうですか……つまりこれが四面楚歌という奴ですね。カイトとバカイトの喝采が本当に楚の歌に聞こえてきそうです。項羽将軍もこんな絶望的な気持ちだったんでしょうか。
「さて。じゃあカイトはカイトに任せて、お前は夕飯の準備でもしてくれ。もういい時間だ」
「あ! 本当ですね。ふふ、ありがとうございますマスター。兄さんも後はよろしくね」
時計を見上げて慌てたように部屋を出て行くカイト。さっきまでのピュアフル家族物語の雰囲気が、パタンというドアの閉まる音と共に崩れていったような気がします。
「さーて」
マスターの声に、条件反射で肩が震えます。
「飛んで火に入るメイドさん? いっぱいご奉仕してもらおうか」
「ごほーし? って何ですかマスター?」
「んー。すぐに分かる」
むしろ一生分かるな。
俺の心の叫びなんか勿論カイトにもバカイトにも届かず、マスターに届いていたとしても状況の好転は望めるはずもありません。
「いっぱい「遊んで」貰おうなー、カイト」
「はい! いっぱい遊んでもらいます!」
無邪気に喜ぶカイトの顔面に思わず手を上げそうになると、その手を直ぐにマスターに掴まれてしまいました。
「おっと、乱暴は駄目だぞカイト。カイトは生徒なんだから、メイドさんがご奉仕のなんたるかをみっちり教えてやらないと」
そのニヤニヤ笑顔を鼻からへし折ってやりたいので却下します。
「なーカイト。カイトは頭いいから、なんでも教えてもらえるぞー」
「わー! やったー!」
駄目だ、もう精神的に耐えられる予感がまったくしない。
コスチュームプレイって、女装じゃなかったらまだ良かったのに。
そう現実逃避したくなった俺を、誰も責められないと思います。ええ。



「に、兄さん!? 兄さん!? どうしたの! なにがあったの!?」
夕飯にと呼びにきたカイトに発見され、もはや指一本動かせないながら、俺は最後の気力を振り絞ってこう言いました。
「……お前のだっつ、一週間分寄越したら……許してや……る…………」
「え、ちょ、兄さん? にいさーん!!」
そんな悲鳴を最後に、俺の意識はブラックアウトしました。
起きたらテメェとバカイト、ただじゃ済まさねぇ。


End.
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