Clap log

□125話 トイソルジャーズ(4)からの妄想
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ドジッたなあ。

賢木は心底から溜め息をついた。
多少格闘技の心得があるとはいえ賢木の能力そのものは戦闘向きではないし、あまつさえECMを仕掛けられESP手錠で後ろ手に拘束されていては文字通り手も足も出ない。

「…どうしようか、賢木クン」

――揚げ句いらないおまけ…九具津付きで。

「普通さ〜、こういうのって美女と陥るべきシチュエーションじゃね?なんで男相手…しかもよりによってお前?!背中に男の体温とか気持ち悪い…!」

「久しぶりに会ったってのに相変わらずの女好きだね君…僕だって君と拘束されるより愛する僕の人形たちと拘束されたかったよ」

「うっわ変態!!マジかよ生身より人形?!お前相変わらずキてんな!!………





…………なんか虚しいな、俺ら」

「………だね」

今更シチュエーションにどうこう言おうが何かが変わる訳もなく、それどころか何らかの手を打たねば真実生命の危機である。

「やべえよな〜、何とかしねえとマジで」

本当に『普通の人々』は厄介だ。
相手がノーマルであるだけにバベルに属する身としては迂闊に傷付ける訳にも行かず、けれど相手は遠慮なくこちらを傷付ける。
幸いにも顔の傷はたいしたことはないが、やはり痛みはあるのだから。少なくとも口の端が切れているからには暫く柑橘類や滲みるものは食せそうにない。

「――男前が台なしだね、痛むの?」

賢木の考えが伝わったわけではないだろうが、九具津が苦笑しながら言う。

「それほどでもねーよ。まあ俺ぐらいの男前ともなれば顔に傷なんてオプションついてもカッコイイし?むしろ男前度が上がるっつうの?――お前こそ大丈夫か?」

笑いながら軽口を叩く賢木は、次いで九具津の心配をする。
ECMと手錠の影響下にあるため碌に透視もきかないのだ、見た目は大丈夫そうだが、内臓を損傷していないとも限らない。
少しだけ医師の顔を覗かせて問い掛ける賢木に、九具津は笑顔のまま眉をしかめる。

「本当に相変わらずだなぁ、君は……」

昔から友人と呼べるような存在は九具津にはおらず、それはバベルへ入局しても変わらないのだろうと自身でも思っていた。
けれど、今背中合わせで共に拘束されているこの男だけは。

「――僕のことを変態だのキモいだの罵るくせに、友人のように声をかけてくれるのは君だけだったね」

「あ〜、そうだっけ?まあ友達っちゃあ友達のつもりだったしなー、俺は」

なんでもないことのようにさらりと返された台詞に、九具津は言葉に詰まる。

――背中合わせで良かった、と思う。
今この瞬間顔を見られずに済んだ幸運に、九具津は信じてもいない神に感謝した。










「………っていう設定からESPドクター受で夏の祭典は行こうかと」

パティは綺麗な顔を興奮で赤く染め、楽しげに言う。
先程パティから受け取ったネームを読み終わり、紫穂はポッキーをかじった。

「うーん、まあまあ、かしら?続きに期待」

紫穂の隣では葵と薫がまじまじとネームを見つめている。

「…いや、何でもネタにできるんやなゆーたけど………こ、ここまでネタにできるん?アレで」

「つうかさぁ、知り合いがこんな風に描かれてるの見るのって背徳的だよね…!パティ絵上手いから余計に」

「幸い資料はいっぱいあるし……」

そう言ってかちかちと携帯を弄り、パティは画面を薫たちに向けた。
いつぞやの洞窟にて葉と絡む賢木や九具津と拘束されている賢木など、パティ的に美味しいと思われる写真がメモリいっぱいに保存されている。
やたらめったら賢木が多いのは謎だ。

「あ、あんたいつの間に撮ってたの?!てゆーかコレ、私に送って!」

「いいけど……代わりにあのドクターの良いシーンあったらそっちこそ送ってよ、あの人色々絡みがあっておいしいから」

嬉々として赤外線通信でデータ交換を始めるパティと紫穂。親友が何だか遠いところへ行ってしまったような気がして、薫と葵は少し寂しくなる。

「うふふ、これで賢木センセイは私に逆らえないわね…!!」

無事自らの携帯に収まった誤解を招きそうな賢木の画像の数々を、紫穂は黒い笑みでくすくすと満足げに見下ろした。

「あ、いつもの紫穂や」

「おかえり、紫穂」

さすが紫穂だ。
遠い世界に行ったようでやはり根本は変わらない。
餌食になるであろう賢木には心中で丁重に合掌して、薫と葵は嬉しそうに笑った。

――ちなみにその時、バベルにて職務中の賢木が嫌な悪寒にぞわりと背筋を逆立てていたのは別の話である。


END

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本誌のまさかの九具津×賢木フラグに
思わず出来心。パティ様…!!
パティは賢木受で壁サークルになるといい
と思います(真顔)
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