Clap log

□はないちもんめ
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はないちもんめ・1



「そんな訳で、我がパンドラに来ないかい?」

目の前にはにっこりと満面の笑み。
おまけに自分の両手を握りしめて。
ご丁寧にサイコキネシスで浮いてまで目線の高さを合わせている。

「…や、どんな訳?脈絡ね−し。つうかジジイてめぇどっから湧いて出やがった?」

確か自分は今職場であるバベルの仮眠室に仮眠をとりにきたはずだが。
バベルといえばエスパーを護るため、そして国家機密に携わることも多々あるために日本最高峰のセキュリティで護られているのは有名だ。

…ならばなぜ今そのバベルの仮眠室で、この男は己の両手を握り笑顔を振り撒いているのか、と賢木は思う。

「嫌だなあ、たかだかこんなセキュリティごときかい潜れない僕だとでも?」

先程まで邪気なく浮かべていた笑顔が皮肉っぽく昏いものへと変わる。
そうだ、相手はこのバベルに指名手配され、何度セキュリティを固めてもたやすく侵入する超度測定不可能な男・兵部京介なのだ。

よりによってオペを終えたばかりで護身用の武器を持ち合わせていない今、遭遇するなんて。
身を守る武器もなく、直接攻撃できる能力を持たないサイコメトラ−の己など、一瞬で殺されてしまうだろう。

「人の話を聞いてたかい?言っただろう、『我がパンドラに来ないか?』とね。
…僕はキミをスカウトに来たんだよ、賢木修二クン。危害を加えるつもりなんかないから、安心するといい。」

賢木の思考を透視んだらしく、くすくすと笑う。
内心ムカついた賢木だったが、兵部はこうみえて潔い男だ。薫からも約束は必ず守る男だと聞かされている。
それならば遠慮はいらないとばかりに反論した。

「尚更意味が判らねぇな。『ヤブ医者』なんかスカウトして何の得があるってんだよじ−さん。冗談キツイぜ。」

ケッと吐き捨てるように言えば、思った以上に拗ねた口調になってしまった。

(うっわ恥っず…!ガキじゃね−んだからよ、俺!)

思わず顔に血が上る。
透視まれないようにと慌てて握られた両手を振りほどこうとすれば、行動に移すまでもなく解放された掌。

先程まで己の両手を握りしめていた男は、床に突っ伏してぷるぷる震えていた。

「えッ、ちょっナニ?!何なのアンタ!!…まさか発作か何かか?!」

一瞬ヒいたものの咄嗟に兵部の実年齢を思い出し、医者としての条件反射で慌てて脈をとれば。

「…っく…ぶはッ…!ダメだ、お腹痛……ッ!」

……息も絶え絶えに、爆笑していた。

「…ホントなんなんだよアンタ…おちょくりに来ただけなら他当たってくんねーか?俺仮眠とりてーんだけど。」

呆れるやら腹が立つやらで脱力する。
もう何でも良いからとっとと自分の前から消えてくれないだろうか。

「ぷっ…くく…っ!いや、済まない、まさかそんなに気にしてたなんてね…!!やっぱりかわいいなあ、キミ。」

多少は収まったものの未だ笑いを浮かべ、男は滲んだ涙を拭いながら言う。

「…悪ィかよ、気にしちゃ。ヤブ呼ばわりされりゃ誰だってヘコむもんだろ!もう何でも良いから帰れよじーさん!!」

全くもってクールでないことこの上ないが、この際だ、とにかく兵部を追い払おうと賢木は必死である。

「わかったわかった、今日はキミのかわいさに免じて退いてあげるよ。…そろそろ坊やもこちらへ向かってるだろうしね…。」

くすくすと笑いながら兵部の身体がふわりと床から浮いた。
ようやく帰ってくれるかと安堵する賢木の頬に手を添え、少し上向かせて自分へと視線を合わせる。

「でもキミをパンドラにスカウトしたいと言うのは冗談なんかじゃないから、僕は諦めないよ。」

表情こそは笑っているものの、兵部の瞳は寒気がする程に真剣だった。

本当になんなんだ、この男は。
けなしたりおちょくったり、かと思えば真剣な瞳で自分をパンドラに勧誘する。

兵部は困惑する賢木を楽しそうに眺め、不意に顔を近付けた。

条件反射で思わず目をつむった賢木の額に、柔らかな感触とチュッという軽い音。

「…ついでに言うと、僕はかわいいコほど…、好きなコほど虐めたくなるタイプなんだ。覚えておいてくれ。」



「………………………は??」



言われた意味が理解できず、数瞬遅れて目を開けばすでに兵部の姿はなく。
仮眠室には茫然自失の賢木だけが取り残された。


(っつうか最後のあれ…なんで俺相手にでこちゅ−…??)


END?


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ヤブ医者発言のありがち兵部×賢木ネタ。
続きでこの後の話です。皆本×賢木。
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