Clap log

□Poisson d'avril,
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…本当に驚いた時って、人間意外とノーリアクションになるもんだなあ

――まるで他人事のように思った。



Poisson d'avril,



「………………賢木、」

皆本の眼前にはコメリカ時代からの親友である賢木が、神妙な表情でこちらを見つめている。
どう返して良いものか、むしろ先程の彼の発言をどう受け止めたら良いのか、皆目見当もつかない。

「すまん、その、本当に、悪いんだが、…いま、何て?」

あまりの動揺に一言一句ずつ区切りながら問い掛ける。

「……もっかい言えってのか?」

顔をしかめながら賢木がぷい、と横を向いた。
頬がうっすら赤らんでいる。

……非常にまずい空気だ、と皆本の背を冷や汗が伝う。
一度視線を逸らした賢木が、再び皆本に向き直る。真剣な表情だ。
自分で問い掛けておきながら今更だが、賢木の返答を遮りたくなった。

「―だから。…好きなんだよ、お前のことが」

はっきりと紡がれる賢木の言葉。
しばらくお互い無言で視線を交わらせていたが、先に眼を逸らしたのは皆本のほうだった。
右手で握りしめていたタンブラーを見つめた後でおもむろに中身を飲み干し、がつんと勢い良くテーブルへと置く。
すっかり温くなってはいたものの、ビール独特の苦みと炭酸が喉に心地良かった。


スキナンダヨ、オマエノコトガ…………え、今僕告白された?誰に??――って賢木しかいないよな、だって今ここ僕と賢木しかいないんだし薫たちは柏木さんちに泊まりに行ってるしっていうか賢木は僕の親友で、男で、ものすごい女たらしで、じゃあ何で今告白されたんだよ僕おかしいだろ何でこんなことになったんだ??今日は久しぶりに賢木が僕んちで呑みたいって言ってお互い都合良かったから仕事上がりにうちに来ただけでなのに何で僕が賢木に告白をされてるんだ??さっきまで賢木もいつも通りだったじゃないか、二人でテレビ見ながらソファに座って僕の作ったツマミをつつきながら酒を呑んで、バカ話して。…いや、そうじゃなくて、今気にすべきはそこじゃなくて、何か…何か賢木に返さなきゃ…


ぐるぐると堂々巡りする思考を半ば無理矢理断ち切り、皆本は賢木へと視線を合わせた。
賢木はずっと皆本を見つめていたらしく、真摯な眼でこちらの様子を窺っている。

「…賢木、その、僕は」

何でも良いから言葉を発さなければ、と思えば思うほど意味の見当たらない言葉ばかりが口から零れた。
皆本の様子を見ていた賢木が自嘲気味に嗤う。

「別にいいぜ、無理しなくて。…普通に考えりゃ嫌だろうからな、親友…男に告白されるなんてさ」

「違…ッ!そんなんじゃない、僕はただ…!!」


ただ?ただ、なんだ?


どう返せばいいのかがわからない。
だが、賢木の言うような嫌悪感はないと伝えたいのに、上手く言葉が出てこなかった。

「ただ、何?」

薄く笑んだ賢木が、とん、と皆本の肩を押した。

「わっ?!」

ソファへと身体が沈み、寝転んだ形の皆本の腹の上にはいつの間にか賢木が跨がり、覆いかぶさるように皆本の顔を覗き込んでいる。

「さささささ賢木!??」

ちらりと目線を右へやれば、賢木の左腕が皆本の顔の横へと付かれていて、左側もまた同様だった。
とにかく混乱することしか出来ない皆本の頬に、ひたりと賢木の手が添えられる。

「皆本、…ゴメン」

心底辛そうに呟くと、ゆっくりと賢木の顔が降りてきた。



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