Clap log

□Trick × Trick
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Trick × Trick


がしゃ、ぴたり。

バベルの廊下で何気なく角を曲がり、何故かそこでいきなり額に突き付けられた銃口からは真意なんて全く透視めないけれど。
掌に収まるほどに小さいが、突き付けられた銃が本物であり実弾が篭められていることが透視めたからには、やはりホールドアップだ。

「FNポケットモデル・M1906…通称ブローニングベビー。なんのつもりだよ、紫穂ちゃん。25口径とは言え額撃ち抜かれたら死ぬぞ?」

両手を胸の高さまで上げ、ため息混じりの賢木の言葉に紫穂はにっこりと微笑む。

「小さくて可愛いでしょ?コレ。こないだバレットに貰ったの」

天使のように微笑む彼女は変わった黒の三角帽子を被り、これまた黒のワンピースに膝までの編み上げブーツ。スカートの裾はザギザギとしたアシンメトリーでふわりと膨らみ、右側にはかなり大胆なスリットと、そこからホルスターが覗いている。

後ろに控える薫も葵も多少デザインに違いはあるが、似たようなワンピースに身を包んでいた。
当然二人も帽子を被っている。
薫に至っては何故か箒に腰掛けて浮いていた。
……魔女の仮装だろうか、と賢木は思う。

「そやからさっきから言うてるやん?」

「そうそう!センセー耳遠くなった?歳??」

聞き捨てならない薫の言葉にひくりと引き攣り、賢木は大声で反論した。

「待て俺はまだ二十代だッ?!……じゃなくて!俺が言いたいのは…」

ごりっ。

「Trick and Trick、よ?センセイ」

再び突き付けられた銃と共に賢木に向けられた紫穂の言葉は、実に楽しそうである。

「……今日がハロウィンなのは知ってたし、君らの格好からも判った。けどな、紫穂ちゃん。―――さっきからなんでイタズラしか選択肢ねえのっていうかイタズラ二乗なの?!」

コレやるから!頼むから帰ってくれ!と白衣のポケットから色とりどりのロリポップと小さなチョコレートを差し出す。…が、紫穂はまるで見向きもせずに宣った。

「悪いけど、センセイに選択の余地はないの。あるのは黙ってイタズラを甘受する道のみよ。……皆本さんのようにね」

紫穂の言葉にぞわりと総毛立つ。皆本は一体何をされたというのだろう。

「あ、イタズラだけやのうてアメちゃんも貰うけどな?」

「わーいありがとセンセイ♪」

ちゃっかりと賢木からロリポップを奪い、葵と薫は嬉々として口に運んでいる。

「なにコレお菓子も取られた上にイタズラ二乗ってどんなカツアゲ?!」

俺のおやつー!と嘆きながらもホールドアップスタイルは崩さない。

「さて、それじゃセンセイ?イタズラ開始の時間よ」

銃をホルスターにしまって告げた紫穂の言葉に、にこりと三人が微笑んだ。
……にやり、と言ったほうが正しいかもしれない。

「待って待ってマジで待って!!……み、皆本には何したんだ?」

少女たち相手に本気で腰が引けている賢木からの質問に、葵はきょとりと眼を丸くした。

「ん?大したコトはしてへんよ。かわいいモンや。なあ、薫」

「うん。皆本がお風呂に入ってる間に家にある皆本の服、脱いだやつも下着も含めてぜーんぶあたしんちに隠して、代わりに女物の下着にガーターベルト&白のオーバニーソとミニスカナース服を脱衣所に置いてきただけだもん」

「全裸か女装かバスタオルか選べるんだもの、かわいいイタズラよね」

それが何か?と言わんばかりのチルドレンに、賢木は心の底から震え上がった。

……恐ろしすぎる。

そろりそろりと廊下に膝をつき、賢木はホールドアップスタイルのままに頭を垂れた。

「すいません本気で勘弁して下さい俺今日仕事詰まってるんですッ」

「センセ、そこまで…!」

「紫穂…」

「……………」

見事な土下座と敬語に賢木の本気を感じ取り、葵と薫は心が動いたようで。
困ったように眉尻を下げて二人は紫穂を見やる。
むう…と腕を組んで考え込み、紫穂は溜め息をひとつついた。

「――しょうがないわね、じゃあ今回はコレでゆるしてあげるわ。センセイ、顔を上げて」

「え、」

拗ねたような紫穂の声に顔を上げると同時、頭に『ナニカ』を装着される。
疑問符を浮かべつつ頭に手をやると、ふさふさと掌に触れる三角の耳。

「…………………ねこみみ??」

理解が追いつかない賢木の顎をくい、と上げ、紫穂はかちゃりと首輪もつけた。

「――これでよし!今日一日はこの格好で、あと喋る時は語尾に必ず『ワン』てつけることが条件よ」

「猫耳なのに!?」

「ぶッ!!」

皆本よりはマシなものの、成人男性には少しばかり辛い要求に賢木は思わず突っ込む。
賢木の尤もな突っ込みに薫と葵が噴き出し、けらけらと笑いころげた。

「語尾!!」

ぎろりと紫穂に睨みつけられ、賢木は慌てて口をつぐむ。

「………わん」

「宜しい」

渋々ひと声鳴き声をあげると、紫穂が至極満足そうに頷いた。

「――さて、ほんなら次行こか!」

「そうだな、次は……バレットとティムんとこ!紫穂、行こう」

「ええ。――じゃあね、センセイ。途中でソレ外したり語尾ごまかしたりしたら赦さないわよ」

用が済んだら興味は無し、とばかりに葵、薫、紫穂は次のターゲットの話で盛り上がりながら賢木を放置していく。


………とりあえず、今日は研究室に篭る仕事で助かったなあ、と諦めにも似た気持ちでぼんやり考えつつ、既に被害に遭った皆本と、これから被害を被るであろうバレット達に合掌する賢木だった。


END


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……アレ、紫賢のつもりが何だか微妙(汗)
とにかく書いてて楽しかったです!私だけが(苦笑)
皆本さんが可哀相。
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