Clap log

□2010年4月馬鹿
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「……う……さむ…」

うっすらと覚醒した意識の中、肌寒さを感じてバレットは手を彷徨わせた。
確か寝る前にはきちんと毛布も布団もかぶっていたはずだが…と寝ぼけた思考を巡らせていると、あたたかい何かに指先が触れる。

(あったかい……)

肌寒ければ暖かいものにすり寄るのは人間の本能のようなものだ。
ぬくぬくとした人肌に擦り寄り、はたとバレットは我に返る。

(――――あったかい???)

よく考えてみると頬に触れる寝具はさらさらふかふかで、慣れ親しんだ己のものとは感触が違う気がした。
何より広さが違う。己の寝台はこれほど広々とはしていない。
おそるおそる眼を開き確かめると、目の前には褐色の肌。

「―――えーと……」

……今、己と同衾しているのは誰なんだろう??

だらだらと冷や汗が出て、先ほどまでの心地よい微睡みなどすっかりどこかへ吹き飛んでしまっている。
混乱するバレットをよそにその褐色の肌の持ち主はもぐもぐと何事か呟き、ゆるりと腕を伸ばしてバレットの頭を抱え込んだ。

「わぷっ!」

思い切り胸板に押し付けられ、その真っ平らな胸板、褐色で裸の上半身からバレットはようやく相手が誰であるかに思い至る。

(さささささささかきとくむぎかんどの!!?)

叫びださなかった自分を褒めてやりたい、とバレットは思う。
そおっと目線を上げて様子を窺うと、どうやら賢木もバレットの温もりにほっとしたようで吐息をひとつ吐いた。
すうすうと洩れる吐息は実に気持ち良さげで。
バレットは思わずじっと賢木の顔を観察した。

(……賢木特務技官どの、睫毛長いなあ…)

こうして改めて見ると精悍な顔立ちをしているのだなあとしみじみ思う。
美形というのとはちょっと違う、いわゆる男前に分類される顔立ちであるのは知っていたが、普段愛想よく笑顔の多い(特に女性が絡むと愛想のいい笑顔を通り越しだらしのない笑顔になる)賢木だけに寝顔はその顔立ちが際立って見えた。
素直に感動して何気なく睫毛に触れようとしたところで、賢木の瞼がぴくりと動く。
ゆっくりと開かれた瞳に、ぼんやりとした眼差し。
視線が定まらないままに賢木は己が胸に抱き込んだままのバレットの頭を撫でる。

「あ〜……おはよう……?」

寝起きのせいで掠れた声のまま、疑問系で挨拶をされた。
どこまでも律儀なバレットは、寝転がった姿勢のままこれまた律儀に敬礼しつつ返事をする。

「はっ!おはようございます、賢木特務技官どのッ!」

ぼんやりしていた賢木の視線が焦点を結び、じっとバレットを見つめた後破顔した。

「……相変わらずクソ真面目な、お前…」

楽しげに笑いながら敬礼したままのバレットの頭を撫でる。
くしゃくしゃと黒く艶のある髪の毛を一通りかき混ぜると、もう一度自分の胸板へと押し付けた。
くあ、と欠伸をひとつ洩らし、枕元の携帯で時間を確かめると寝台の端へと追いやられていた毛布を被り直す。

「んだよ、まだ6時じゃねーか……今日俺非番なんだからよ、もう一眠りしよーぜ…」

付き合えよ、バレット。

思わず素直に従いかけたバレットだったが、よくよく考えたら…いや、考えずともこの状況は誰がどうみてもおかしい。
確か夕べは深夜までティムとチルチルのDVD鑑賞に勤しみ、自室の寝台で眠りに就いたはずだ。
なのに何故、眼が覚めると賢木と同衾なぞしているのか。
見覚えのない寝台と天井と内装、そして賢木がひとつ寝台にいることから、おそらくここは賢木の自宅なのだろう。
しかし分からないのは「何故賢木の部屋にいるのか」ということだ。
頭上に疑問符を浮かべながら、それでもおそるおそるバレットは問うた。

「あの…、なぜ自分は賢木特務技官どのの部屋に………??」

ほんとうに訊きたかったのは『何故同衾しているのか』という事だったが、まずはここにいる理由からだ、と己を落ち着ける。
一方訊ねられた賢木はきょとりと眼を丸くして、まるで『何を言っているのだこいつは』といった顔でバレットを見つめた。
寝直す心算は吹っ飛んだらしい。

「―――は、お前本気で言ってんの??夕べのこと覚えてないとか言っちゃう訳か?」

気怠げに身を起こし、賢木はがしがしと頭を掻いた。
ただでさえくせの強い髪の毛は寝癖も相まり、更にいつもよりあちこち自由奔放に毛先が跳ねている。
いつもより幾分若く見える賢木に気をとられてしまいそうになったが、聞き捨てならない台詞にバレットは勢い良く起き上がった。

「ええええおおおお覚えてないというかじじじ自分はどのような粗相をしでかしたのでありますかッ!!!?」

あわあわと一息に叫んだ後、ふと賢木の全身を視界に入れて今度こそバレットは絶句した。

(ささささかきとくむぎかんどのはなぜしたぎすがたでおれとひとつふとんに、ええええなにこれぇえ??!)

……上半身裸なのは、擦り寄ったときから気付いてはいたが、よもや下着姿で同衾していたなんて。
慌ててバレットは自分の身体にも視線を向ける。案の定…というか、外れていて欲しい予想と寸分違わずなぜか己も下着姿だった。

(成る程、道理で肌寒かったわけだ……ってそこじゃないだろう俺ェええぇ!!!?)

現実逃避したくなる(むしろ一瞬した)己の思考に自らツッコミをいれ、バレットはぶんぶんと勢い良く頭を振った。
知らぬ間に同衾しているだけでなく、揃って下着姿だなどと。
相手が女性であれば、コレはもう間違いなくアレでソレな展開であるわけで。
しかし相手は賢木なのだ。バレットよりも年嵩で、同性で、何より女性が大好きだと公言して憚らない、大人の男である。
顔色を無くしたバレットに苦笑を浮かべ、賢木は少しだけ視線を床に向けた。

「…………まあ、責任とれとか生娘みてーな事言わねえからさ?忘れちまってんならしゃあねえし」

「!!」

賢木の台詞に無くした顔色はすっかり戻り、むしろ茹で蛸の如く真っ赤に染まる。
やっぱり、と衝撃を受けるべきか納得すべきか、全く混乱した思考のままそれでもバレットは思わず大声で叫んだ。

「確かに覚えていませんが!ですが、せせせせ責任は取りますから!大事にしますからッ!!?」

「…………マジで?記憶ねえのに?それでもいいわけ?」

「マジですっ!ふ、ふつつか者ですが、どうかよろしくお願いします…ッ!」

パンツ一丁、しかも寝台の上、正座に姿勢を正してバレットはふかぶかと三つ指ついて頭を下げた。
『お前はどこの新妻だ!』と突っ込みたくなるのをなんとか抑えこみ、賢木を笑いを堪えて肩を揺らす。

「俺、お前のそーゆー融通きかねえクソ真面目なとこ、かなり好きだわ」

――――いくらエイプリルフールとはいえ心が痛むぐらいには、好きだな。

続く言葉と本心からの同情は、賢木の心の中だけで呟かれたものだったけれど。











「………あの〜……もう本気で勘弁してやってくれないかな?薫ちゃん、紫穂ちゃん、葵ちゃん」

控えめに、けれど明確な意志をもってティムが言葉を紡ぐ。
目の前にはわくわくと隣室で繰り広げられる寸劇に食いついている見た目も愛らしい少女たち×3人である。

「なんで!これからがいーとこなんだよ、ティム!」

「う〜ん……そやけどさすがにここまでするんは酷とちゃうか…?バレット真面目やし、本気で信じてまうで」

「こないだパティに借りた本のシチュエーション真似てみたんだけど…生ぬるかったかしら?」

三者三様、それぞれの意見を口にする少女たちに、ティムは心の底から相棒に同情した。
葵だけは同情的な意見を出してくれたのが唯一の救いである。

「いや、あいつ責任感強いし真面目だから、これをきっかけにマジで賢木サンへの愛っつーか何つーかに目覚めちゃったらシャレになんないと思う……」

積極的に助けられない無力な俺を赦せ、バレット…!!と思いつつ、矛先が己へ向けられることが恐ろしい。
悪ふざけ以外の何ものでもないこの計画にティムが強制的に協力させられているのは、影チルの二人が護るべきでありまた敬愛するチルドレンのお願いを断りきれなかったからだ。
妙な悪ふざけに関してはチルドレンと並ぶほどにフットワークの軽い賢木まで加わり、4月1日の早朝からこんなことをしている己の存在意義を小一時間ほど自らに問いつめたい。

(ほんと何してるんだろう俺…)

夕べはチルドレンたちの指示でいつも通り、いやそれ以上に夜更かしして相棒と二人チルチルのDVDを鑑賞して。
お開きにした後自室ですっかり寝入ったバレットを葵のテレポートで賢木宅へ移動させ、薫のサイコキネシスで服を脱がせた。
そうして今朝に至るわけだが――――――

なんとも不運で真面目な相棒に涙が出そうだ。

バレットへのネタばらしまで、少女たちの立てた予定ではあと5分。
どうかバレットがソッチに目覚めませんように……!!と切実に祈る事しかできないティムだった。


END

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こ れ は ひ ど い 。
我ながらこのチルドレンと賢木先生は
ひど過ぎると思います(汗)
ごめんよ、バレット…!!(涙)
しかし私はドSなのでバレットを
虐めるのが楽しくてしょうがありません!
これでもバレ賢のつもりですよ(汗)
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