タイムトラベル

□孤独な奮闘
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『これまで各地で出没したエイリア学園の移動パターンから、大阪に何らかの拠点があるだろう。』と推測したらしい夏未さんのお父さんこと雷門理事長。その推測を頼りに目的地へ出発したイナズマキャラバン。
ということで。今現在、まさに私達は大坂のナニワランドという遊園地に来ていた。瞳子監督の話によると、どうやらこの辺りにエイリア学園のアジトがあるとか何とか。……え、遊園地に?って感じだが、そういうことらしい。


「着いたはいいけど、ここが奴らのアジトぉ!?」
「ジェットコースター!空飛ぶ絨毯!!フリードロップも!!」


唖然となる円堂君やその他みんなと対照的に、木暮君は爛々と目を輝かせてアトラクションをキョロキョロ見回している。さり気なく「すっごいなぁ!」とはしゃいでいる木暮君の隣りに立っている春奈ちゃんは少し呆れ気味にその本人を横目で見ていた。


「こんなところにアジトなんかあるのかしら?」


春奈ちゃんの更に隣りで秋ちゃんが呟くのと同時に、携帯電話で理事長さん達に連絡をとっていた瞳子監督が通話を切る。


「間違いないわね。再度確認してもらったけど、奴らのアジトがあるのはこのナニワランドのどこかよ。」


瞳子監督の確信満ちた声色に、円堂君達は改めて驚く。


「つってもなぁ〜。」
「どう見ても、ただの遊園地にしか見えないでやんすぅ。」


土門君と栗松君が次々とそう続ける一方で、夏未さんはいち早く真面目な表情に戻っていた。


「とにかく、手分けして探すわよ。ここでじっとしてても仕方ないわ。」



夏未さんの言葉にようやく円堂君も我に返り「あぁ!」と頷く。その様子を横目に、私は誰にもバレないように周りに目配せをして……特に何も異変を感じなかったので小さく息を吐いた。
歪み始めてしまった過去を正常にするために。お祖母ちゃんやお父さんを助けるために。私自身が元の時代へ戻るために。正直14歳にしてはあまりにもいろいろと重すぎるような、そんな事情を背にイナズマキャラバンへの同行を決意したあの日から。私は常に周囲に気を配るよう心がけていた。油断はできない。私はまだ命を狙われている身なのだ。そして相手は、私を葬り去ることができるのであれば誰であっても犠牲を厭わない。現にお祖母ちゃんやお父さんだけでなく、私と直接関係のない人まで犠牲になっている。…つまり、いつ円堂君達にも危害が及ぶのか分からないのだ。本当なら彼らと行動を共にすることを避けるのがベストなのだが…一刻も早く全てを解決させるには彼らと共に行動するしかないという矛盾。何だか頭がこんがらがりそうだけど、とにかくこれ以上、時の流れの混乱は避けなくてはいけないのです。絢子もそう言っていたし、ね。
私なんかがジタバタしても、何か起こってしまえば防ぎきれない。だけど、もし少しでも早く異変に気づいて未然に防ぐことができるなら…せめて犠牲を半減できるのなら、それに越したことはない。

だから、ずっと気を配り続けてきた。

キャラバンに乗っている時も、交通事故が起きないか?と窓の外を常に見回し続けた。休憩としてキャラバンが停車している時も、外に出ていろいろと古株さんにチェックした。(タイヤがパンクしてないか、とか。ガソリンは足りているか、とか。ブレーキは大丈夫か、とか。)
睡眠も必要最低限。その合間に、秋ちゃん達のマネージャー業のお手伝いをしたり……今思うと、我ながらハードな生活をこなしているものだ。



「おい、彩音?」
「大丈夫か?」

「……え?」


いろいろ考えに耽っていると、不意に風丸君と鬼道君に声をかけられる。
驚いて我に返ってみると、怪訝そうに私を見ている2人がいた。


「もしかして、みんなもう探し始めた?」


周囲を見てみると、円堂君達は既にそれぞれ行動を開始していた。
吹雪君も何やら見知らぬ女の子達と一緒に捜索を開始している。

いけない、いけない。
私もちゃんとお手伝いしないと!



「ごめん!私も探すね。」

「…いや。顔色悪そうだし。」
「お前は少し、休んだ方がいい。」



歩き出そうとすると、風丸君と鬼道君が待ったをかけてきた。心配してくれているようだ。
とても有難かったけど、私だけ休むわけにもいかないので「大丈夫だよ、ありがとう。」と言って足を動かした。そうしたら2人は「疲れたら休めよ?」「気分が悪かったら遠慮なく言うんだぞ。」と忠告してくれた。気にかけてもらえているって感じるだけで、少し心がホッとした。

気持ちを新たに、1人ゆっくりと園内を巡る。

天気は快晴、気温も程よい。親子連れやデートしてるカップル、いろんな人々が楽しいひと時を送っていた。(キョロキョロ何やら捜索している私達って違う意味で目立ってそうだなぁ。)
途中、食べ物売り場に走り出そうとする壁山君を栗松君が必死に止めていたり。捜索放置でアトラクションに乗って遊びまくっている木暮君に、春奈ちゃんが振り回されていたり。アニマル戦隊もののポスターを見て「怪しいですねぇ。」とボヤいている目金君がいたりなど。幾つか微笑ましい光景を見つけ、ついつい口元が緩んでしまった。



「ふぅ、ちょっと休憩。」


しばらく歩いたところで疲れが出てきたので、適当にベンチに座った。何個か設置されているベンチの内、運良く1つだけ空いていたのだ。
腰を下ろして、青空を見上げて。ふと周囲のベンチを見回してみると、どこもかしこもカップルが占領している。みんな、幸せそうだったり楽しそうだったりで……いいなぁ、なんて思って。どうしてか分からないが、また口元が緩んだ。変な言い方になっちゃうけど、幸せを分けてもらえたような。そんな気分だ。



「もしかして君、1人?」
「……へ?」


ごちそうさまです、なんて心の中で呟いていた矢先。不意に声をかけられて、呆けた声を出してしまう。反射的に声のした方を見てみると、いつの間にやら見知らぬ男の子……多分、年上(高校生かな?)っぽい人が目の前に立っていた。
え、何だろう?と思う間もなく「俺も1人なんだよね〜、良ければ少し話さない?」と言いながら、返事もしていないのに男の子は私の隣りに腰掛けてくる。……これって、もしかしなくても世間で言うナンパというものだろうか?
自慢ではないけど、これまでの人生で一度足りともナンパされた経験は無い。まさかの事態だった。


「名前、教えてくれる?」
「えーっと…。」


普通に教えたくないに決まっている。こういう時は「人と待ち合わせしてるので。」「急いでるので。」と適当に誤魔化してさっさと退散すべきだ。
妙に冷静な脳内でそう結論付けると、実行に移すべく立ち上がろうとした…瞬間。



「彩音。」
「!」


ナイスタイミングで吹雪君が通りかかってくれたようで、声をかけてくれる。……あ、違う。吹雪君じゃなくてアツヤ君だ。
逆立った髪、つり目のオレンジ瞳。眉間に皺を寄せたアツヤ君が、私達の前にいる。


「…誰だ、そいつ。」


スッと瞳を細めて男の子を見るアツヤ君。まるで睨んでいるようだ。
アツヤ君の視線を受けた男の子は少しだけ頬を引きつらせると「あ、その…はははっ。」とワケの分からない言い訳をし、小走りでこの場から去っていく。男の子の姿が見えなくなったところで、私はホッと一息ついた。



「ありがとう、アツヤ君。」
「……ナンパでもされてたんだろ。どーせ。」

「ん〜、でも。まさか生きている間にナンパされるなんて思いもしなかったなぁ。」

「……。」



思わず笑いながらベンチから立ち上がると、アツヤ君がハァ〜と呆れ混じりのため息を吐く。



「…やっぱお前はうかうか目の離せない奴だぜ。俺が見つけなかったらどーするつもりだったんだよ。」
「何だかんだ理由つけて逃げてたよ。私だけデートってわけにはいかないもん。」

「ったりめーだろ。バーカ。」



他愛も無い会話を交わしながらも、私達は並んで歩き出した。


「そういえば、もうあの子達はいいの?」
「あ?」
「さっき、吹雪君と一緒に園内回ってた女の子達。」
「ハッ、知るかよ。お化け屋敷出たところでテキトーに別れといたぜ。」



この言い方からすると。
強行突破してきたんだろうなと推測できた。

もちろん吹雪君じゃなくてアツヤ君が、ね。


























ナニワランド
(もしかして。)
(私のこと、探してくれたの?)

(なんて、自惚れすぎかな?)


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