少年陰陽師

□徒花
1ページ/1ページ





俺には3歳離れた姉がいる


「昌浩、庭の梅に花が咲いたのよ」



それが彼女、綾姉上


俺の叶うことのない、叶ってはいけない想い人



「姉上、もう少ししたら花見にでも行きましょう」


「そうね」



クスリと微笑みを浮かべる姉上はとても綺麗だ





さらさらと風に揺れる濡れ羽色の髪





微かに細められた漆黒の双眸





甘美な薫りが俺を魅了して止まない



全てが俺の理性を狂わしていく








でも、姉上は……





「あの、昌浩…その…今日は騰蛇と一緒ではないの?」


「いえ、後から来ると思いますよ」


「昌浩〜、綾〜、待たせたな!」



遠くから駆けてくる真白な影



もっくんに向かって花が綻ぶような笑顔を向ける姉上





それは、俺には絶対に向けられない……表情





俺がこんな感情を持っているのが異常なのに




もっくんが無性に憎く、そして羨ましく感じてしまう





「……でね、昌浩…って聞いていたの?」


「えっ、な、何?」


「はぁ、しっかりしろよな。晴明の孫」


「孫って言うな!」




回りの声がよく聞こえていなかった



姉上を心配させたいわけじゃないのに





「ごめんなさい、姉上。何の話をしてたんですか?」




俺は無理矢理笑顔を作り上げた





「明後日にでも梅を見に行こうって、言っていたの」


「…分か、ったよ」


「おいおい、どうしたんだ?」



「別に、ただ疲れてるだけだよ。最近…寝てないし」


「昌浩、ちゃんと休まないと駄目よ」





悲しげに眉をよせる姉上を見てられなくて俺は俯いた



今日はオカシイ



何時もならもっと巧く隠せるのに





「おい、昌浩。本当に今日のお前、変だぜ?」




もっくんにも気づかれるなんて




ほんと、今日の俺はオカシイや




「…ごめん。俺、休んでくるから」




俺は俯いたまま言うとそのまま自室に向かった




途中振り落とされたもっくんが何か喚いていた





自室に着くと俺は障子を背にずるずると座りこんだ





「…俺、何やってんだろ」





か細く震える声は誰にも届かない





頭を抱えるように蹲る俺は端から見れば酷く滑稽に映るだろう





「…もう、疲れた」





自分を偽ることに





ふと、俺の目に鈍く光る銀色が止まった




紙を切るために机においといたそれ





俺は震える手で刃を掴んだ





「……ごめんなさい」





誰に謝ったのだろう




禁忌を犯した自分か





それとも、邪な感情を持ってしまった姉上にか








それは、誰にも分からない







俺でさえも






「許されなくても、愛していました。姉上






徒花
(どうか罪深い俺にも)
(来世を)




.
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ