鬼閻艶短編集(R18)
「天国五色」 400円

「目次」

 究極お預け考
 上手な部下の育て方
 ねんねこ
黒 下克上未遂
 幸せな音


この本のコンセプトは「エロ鬼閻」をどれだけ書き分けられるか。
赤だの青だのと書いているのはそのためです。ギャグっぽいもの、主従もの、鬱っぽいもの、鬼畜っぽいもの、そして最後甘めにしめよう!という目標の元書きあげました。


下は幸せな音のサンプルです。

シャワーの音が聞こえる。
オレは狭いけれど、ふかふかしたベッドの上でそれに耳を傾ける。
部下の匂いの染みついたお布団にくるまって、その入浴シーンを復元してみるのも悪くない。
風呂場のタイルを叩いて、星屑を溶かしたような髪に、黒糖キャラメル色した肌に、きらきらしたお湯が降りかかる。ギリシアの神像よりは細身だけど、鍛えあげた体には、きっとそういうものがよく似合う。見慣れた、というにはまだ足りない体を思うと、同性なのに想像しただけで心臓がうるさく高鳴ってきた。本当に変態さんの仲間入りをしてしまったのかもしれい。
バクバクだっけ?ドキドキだっけ?
とっくに忘れていた筈の音が体に響く。それは臆病者の小動物みたいにびくびくしながら、オレの体の中で激しくタップを踏んでいる真っ最中だ。こうしてここに来るのは三回目なのに、まだ慣れない。彼の匂いの染みついたこの空間に。
やがて水の音が聞こえなくなって、ガチャンとドアが開く音。ビクッと跳ね上がった体が、自然と瞼を下ろした。
ペタペタ足音が近づく。ゆっくりだ。頭を拭いているんだろう柔らかい音と一緒に近付いてきてピタッと止まった。湯上がりの熱気みたいなものが顔にふわんとかかる。
「この、イカ巻き大王が」
「…イカは、のり巻きにはしないよ」
普通は握りでしょうね、と彼は言う。
目を開けて目に映るのは、水も滴るいい男。上半身裸で、首にタオルをかけているだけなのに、それが妙にサマになる。色っぽいのに爽やか、上手く表現できないけれど、言うなればそんな欲張りな組み合わせ。
横に座ったもんだから、ベッドがたわんでそっちに転がってしまう。膝にコツンと当たって、そっちを見上げた。その先で彼はさも余裕ありげに笑ってる。
「なんだってそんな簀巻きみたいになってンです?」
「うるさいなあ、いいでしょオレがどんな格好してようが。萎えたならもう寝かせてよ、オレは眠いの、そして明日も仕事なの」
「僕も仕事ですけど?」
とことん優しげに微笑んで、オレの頭を撫でた。
無理矢理布団をひっぺがさずに手を伸ばす。明るい色の目でこっちを見つめて、頭を撫で続けるんだ。大きい手に髪を梳かれながら、オレは自分の感情ってヤツを再確認する。
だけど、それとこれとは別問題。だって、そんな優しい顔して細身な体をしてるくせに、彼は爪以外にもう一つ強大な武器を持っていたんだから。

(本編に続く)

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