鬼閻短編  「れんあいキカン」 800円


甘さ控えめ、両思いになる前の話集

目次 恋愛器官
   恋愛奇観
   恋愛期間

サンプルはそれぞれ下に

「恋愛器官」

すてきな恋がしたい。それがオレの揺るがぬ思い!

彼はそう言って、僕よりも少し小さい手でギュッと拳を握ってみせたことがある。つい一ヶ月くらい前の話なのだけれど、なんだなんだ。やっぱりそんなに遠い話でもなかったじゃないですか。
並んでこちらに向かってくる彼らを見守りながら、思わず笑みがこぼれた。
ほーら、やっぱりと呟いて、仰向けにひっくり返る。お腹が空いたのに、ごちそうさまです、だ。
ここ最近に聞いたことが頭の中で、巻き戻されて再生される。




「恋愛奇観」




初恋は、何年経っても尾を引く。甘酸っぱいなんて言ってられるヤツらは温い。
僕にとっては、甘さよりもまず苦さが先に立つ。あの『天国の死闘』で憧れやら幻想は木っ端微塵に粉砕されたと思っていたのに、恥ずかしさもこもった酸っぱい苦さは健在だ。
相手が今も、あの時と変わらぬ姿でいるからなおのこと。
距離が縮まってしまったから、なおさら。



「恋愛期間」



助けてください、閻魔大王。

そんな言葉を聞いたのは、あの天国の死闘以来三回目。一回目は敬語を忘れた記念すべき一回目。さっき一度聞いた時には、びっくりしてあめ玉を取りこぼした。え、ごめん。なんて言ったの?って聞き返したらこの大接近。つまり、そういうこと。
大真面目な顔。こっちを射抜く目がびっくりするほど澄んでいて、それに気圧されて、オレはいつの間にか壁際に追いやられている。椅子がなければ脱出不可。コンパクトがなければ変身できないし、タモは真っ二つに折られたまま。セーラー服を陽動に使うのではもったいなさすぎる。
何より、相手が頼りの鬼男君なんだから、もうお手上げだ。
ていうか、見なかったことにしていい?助けてほしいのはこっちの方だよ!

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