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記憶喪失のヒルダが男鹿から聞いた事前知識について


「寒くないですかー?ベルちゃん」
「ダブアィ!」

可愛らしいお手てをひしと握り、ヒルダは上機嫌で男鹿の後に続いた。彼女にとって、愛する夫と我が子との初登校である。
親子水入らず(ということになっている)の空間で柔らかな笑みを浮かべるヒルダに、普段の冷酷さは欠片もない。

しかし、誰もが羨むだろうそのシチュエーションの中、男鹿辰巳だけは心中ひやひやのあわあわだった。

「だーもういいから早く行くぞ!お前らがマフラーだなんだってうるせえから、もう待ち合わせ時間過ぎてんだよっ」

そう、彼の頭の中を占めるのは古市ただひとり。

ヒルダの記憶喪失のせいで、ベヘモット騒動ののちも古市を充電出来ていない。しかも追い討ちをかけるような、ヒルダの嫁化、添い寝、熱い眼差し、そして家族の無責任な祝福…怒涛の精神攻撃だった。男鹿はひたすら、これが全部古市だったらどんなにいいかと現実逃避をするはめになった。

しかしそろそろ本物に会って、この状況の苦しみを洗いざらい吐き出して、優しく労って貰いたいのだ。
アホだなお前、とか、ハーレムリア充死ね!とか、多分古市は騒ぐだろう。殴られるかもしれない。
だが、本気で疲れている男鹿の本心を何だかんだで把握している古市は、最後には「大変だったな」と微笑んでくれるのだ。
呆れたように、でも愛おしげに、はにかむ。

「あいつ、俺が遅れたら先に行っちまう!とにかく今日一緒にいかねーと…」

俺が死ぬ。
古市不足で死ぬ。

落ち着かない様子で朝の住宅街を闊歩する男鹿を見て、一方のヒルダはじとりと目を細めた。

「女ですか。その古市とやらは」
「はああ!?」
「たつみさんとどの様なご関係で?」

女の勘が、告げている。

(負けられない…!)

ヒルダは全力で、「古市」に警戒した。
実はヒルダは、何かと「古市」の名を呼び、ああいないんだっけと気付き肩を落とす…そんな男鹿の姿を昨日今日と目の当たりにしてきた。
男鹿にとっては無意識のことらしく、ヒルダはその人物について詳しく聞き出す事を躊躇った。何となく知らない方がいいと思ったのだ。

しかし、これから本人に対面するというなら話は別だ。

「たつみさんの妻として、私には知る権利があります!」

キッと前を見据えて何やら決意を固くするヒルダに、男鹿はたじろいだ。

「何いってんだ、古市は男だぞ?」
「たとえ男だとしても、たつみさんの態度は異常です!いったい何者ですか!答えてください」

このセリフを石矢魔生が聞けば、よくやったオガヨメもっとやれと拍手喝采だっただろう。男鹿と古市の関係もある意味パンドラの箱状態なのだ。


(えーっと…、これはどうすればいいんだ?)

男鹿は途方に暮れる。
いくら鈍くても、ここでヒルダに俺たち恋人ですなどと抜かせるはずはなかった。
そもそも古市は他人にこの関係がバレることを嫌う。(勿論普段のヒルダにはモロバレである。)

だから男鹿は、いくら会いたくても昨日自分の家に古市を呼び出さなかったのだ。家族全員がヒルダを嫁として持て囃している様子を見せたくなかったし、もし古市があの場にいれば、そして悲しげに作り笑いなどしようものなら、男鹿は断固として真実を主張していたからだ。
古市に怒られ、ヒルダに泣かれ、家族に殴られようが、完膚なきまでに暴露しなくては気が済まなかったはずだ。



「古市は…」
「古市は…?」
「古市は…、俺の……」
「俺の…?」


大切なひとで、守りたいひとで、ずっと一緒にいたいひと。
自分にとっての例外で、きっとどこまでも味方してやれる。絶対すぎる、古市への評価。


「そうだな。…普段のお前にとっての、ベル坊に近いかもな」

男鹿の中で、この表現はすとんと腑に落ちた。
男鹿はヒルダがベル坊に向ける一途さを認めている。同じように、ヒルダも男鹿の想いを人間の醜い固執とからかいながらも、どこか一目置いている。
かすかな連帯感や仲間意識が、そこにはあった。



まあしかし、今の状態のヒルダにとっては更々関係ないことである。


「それって…、」

ヒルダの脳裏に美咲の言葉がよぎった。
『ヒルダちゃんは今までベルちゃん命っていうか、至上主義っていうか…とにかく凄かったのよ』
命?至上主義?
それが男鹿にとっての「古市」だというのだろうか。それほどまでに重く真っ直ぐな想いを、彼は受けているのか。


(それに、こんな表情、私は見たことがない)

何食わぬ顔で、しかしその瞳からじんわりと染みてくる隠しきれない情感。愛しい者への、特別な顔だった。

「そう…ですか」

ヒルダがやっとのことでと絞り出した声に、男鹿は当たり前に「おう」と返す。

「わかりました」

(つまり、古市さんは私にとって…)











「ロリコンの、キモ市さんですね」
「酷い!?」

結局ヒルダの中で、古市はバッチリと敵認識された。
なぜここまで自分は目の仇にされるのか、古市は終始首を捻るのだった。





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