今宵はまだ長い






彼女は美しく、可憐で、可愛らしい女子だった。







「雨月さま、雨月さま」



「ん…ああ、何で御座るか?」



「和紙が破けて御座いますれば‥、御取り変え致しましょうか?」



雨月は自分の手元で墨で真っ黒に染まり破けている和紙を見る。



「…いや、今はいい」



「左様で御座いますれば」



雨月の傍らに膝をついた女子がいう。彼女は俗に言う側近であり、腕も立つ人物であった。いつもはただ仕事熱心で、言われたことを迅速にこなす優秀な人材だ。この間伊太利亜に赴いた時にも同行し、様々な任を任されていた。



「…今宵は満月で御座るな」



「ええ、綺麗な黄金色の」



「この月で、一句詠もうと思っていたで御座る」



「まあ、それはどのような?」



彼女は興味深そうに雨月に尋ねる。雨月はにこりと微笑んでいった。



「そなたの美しさに見惚れて、忘れてしまった」



見下ろされ、低い声で告げられた始まり。
今宵はまだ長い。











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