企画

□私が菓子を好きだとそんなにおかしいか?
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日を追うにつれて太陽の恩恵を受けるのは少なくなってきた今日この頃。

その太陽が真上を通り過ぎようかという時、休日だというのに三好が訪ねてきた。

「あの方が」
「お好きだからな」
「渡しておいてくれ」

仕事の時と変わらないスーツに身を包み、差し出してきたのは紙袋。

中を覗けば落ち着いた色に派手な花柄をあしらった缶。

こんな物を持ってくるのにわざわざ三人で来る必要があったのだろうか、疑問をぶつけようと顔を上げれば、ふわりと髪が風に揺れ、目の前にいたはずの三好達の姿は無かった。

しかし遠目に驚異のスピードでエレベーターへと向かう人影を三つ確認できた。

ああ、逃げたのか。

考えずとも見当が付く理由にひとつ溜息を吐きながら。






高く積まれた、まだ新しく見える紙類やら色とりどりのファイルやらが部屋を埋め尽くす。

所々顔を出す現代的なそれらには似つかわしくないアンティーク家具。


目的の場所が見えるのに足の踏み場を探しながら進んでも一向に目的の場所に着く気がしなかった。

おびただしい量の紙の間から見えるは松永、机の上のパソコンに向かって椅子に座っているが、ただならぬ苛立ちを隠すことなく画面を覗く姿。

これまた現代的な周りの雰囲気からは少しばかり違和感を覚えた。

「何か用かね、右目」

目が疲れたのだろうか、眉間をつまみ、背もたれに寄りかかりながら問う姿の松永がひどく新鮮に見えた。

そんな事を考えていれば答えるのを忘れ、痺れを切らした松永が目で再度問うた。

「…あぁ、三好達がさっき玄関まで来てな、これを渡された。」

三好と口にしたとたん松永の眉間には皺がさらに刻まれ、彼らの逃げた理由はやはりこれかと確信した。

松永は日頃必要最低限しか仕事をしない、その代わり三好が休日返上当たり前、労働基準法総無視な努力をしているからである。
しかしいくら有能な三好ですら対応しきれない事がある訳で、

「どうせまた怠けてたツケが回ってきたんだろうがよ、せいぜい頑張れや」


差し出しながらそう言い放つと紙袋が奪われ、中身だけ抜き取ると缶を一瞥。

「…陣中見舞いのつもりか、」

それだけを呟けば器用に缶の周りのビニールを剥がしてポン、という音と共に開封した。

後ろから覗き込めばクッキーやらビスケットやら砂糖菓子やら見るからに甘そうなもの達が所狭しと詰められていて身がたじろぐ。

もう老年を迎えたであろうじじいの陣中見舞いにこんなものを用意するとは三好も疲労でどうにかしてしまったのだろうか。
三人の内何人が過労死するのだろうかと縁起でもない事に思考が飛ぶ。

途端、ビニールの擦れる様な音に引き戻される様に視線を向けるとそこには松永が菓子を食べる姿。

しかも少し目を離していただけだというのに缶の中の内の一ブロックから狭そうに詰められていた菓子は忽然と姿を消していたのであった。

呆気にとらていれば眉を寄せての一言



私が菓子を好きだとそんなにおかしいか?




(いや、おかしいとかじゃなくてな…。)

(卿も食せば良かろう、ほれ)

(誰が食うか、そんなもの見ただけで胃がもたれる)

(素直になれば良いものを…)



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