novel
□例えるならそう、漫画によくあるワンシーンで、見てはいけない恋人の逢瀬
1ページ/2ページ
突然だが自分は目の前の人間が好かない、教頭と1職員が一室にいるというこの状況をできることなら今すぐ去りたい
強く思っでてもその願いを叶えないのは己の立場や今後のことを考慮した上での懸命な判断だ
それを知ってか知らずか(恐らくは前者だろう)しつこいまでに自分に構ってくる男
「卿も欲望に忠実になる気になったかね?」
自分の腰より低めの机に肘をたて、見下すようにこちらを向いて座っている様は気にくわない
「欲望も何も丁重に断る」
なるべく怒気を露わにしないように努力はしたつもりだ
多少語尾が荒立っているがそこは大目に見てほしい
こいつが言っていることが意味不明なのだから
「大体なぜ俺が教頭とそのような関係にならねばならないのですか?」
ため息
毎日のように呼び出される訳、それはこの松永久秀という人物が自分、片倉小十郎に求愛をしているためである
呼び出される度丁重に断っているのだが今日は一段とうざさがましている
「ほぅ、理由などと言うものを卿が求めているとは…いやはやそういうことに執着をしない男だと思っていたのだが」
松永は机に手を突き、立つと同時にいすのキャスターがカーペットの上を滑る
「卿に子守りをさせてる伊達の父上に聞いてね、今時二十を過ぎても浮ついたこともせず仕事に励んでいるらしいじゃないか」
だからどうした、と心の中で悪態づいてやった
自分は輝宗様に返しても返しきれない恩がある、その人のために怠ることなく働くことは人として当然のこと
「そんな卿のためにこうして口説くのも了解をとっているのだ、卿の恩人にな」
「…はぁ?」
今この男は何といった?
口説くというのは百歩譲って良しとしよう
松永と輝宗様が飲み仲間で良く飲んでいることは知っている
だが輝宗様はこんなことは軽々しく了解されないはずだ
となると酔った勢いでか…まったく
この苦痛な日々が自らの恩人の助長させたものだと知ると急にクラリと目眩がしてきた
体がよろめき支えを求め、目の前にあるはずの机に手を突こうとしたがそこに机は無いらしい
気づいたときには遅く、反射的に両手を床に突こうとするが寄りかかる体勢のまま少し硬めのものが進行を止め、背中にはな何かが回されている