novel
□甘さと酸っぱさと中和します
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「それにしても出店、多いな」
蒸し暑いと嘆いていたのは何処へやら、人々の間できょろきょろと松永の前を率先して歩きながら見渡す小十郎
落ち着いた言葉とは裏腹にその様子は期待を膨らませている子供のようで、目を輝かせたり、値段を見て悩んだりしている
珍しいこともあるものだ、と普段とのギャップにくすり、と笑ってしまった
すると突然、小十郎が不安そうに周りを見渡す
異変に気付いた松永と目が合い、
「なあ、あれは何だ?」
人混みを縫って手を伸ばし
しきりに松永のシャツの袖を荷物を持っていない手で引っ張って問う
武骨な指の先には出店のひとつ、自分たちを通り過ぎる人が多すぎて何の店まで確認はできない
浴衣姿の男女をやっとの思いで掻き分け近づくと、目立つ色でりんごあめ、と書かれた暖簾が目に入った
「卿は知らないのかね?」
綺麗に並べなれた大小様々な赤いものを見ると小十郎はああ、と答えた
「林檎飴と言ってな、生のリンゴに飴をからめた菓子でこの色は食紅だ」
手を右往左往として、どうしたら買えるのか理解をしていないであろう小十郎
並んでいる客はおらず松永は前へ出て、大きいのを二つ頼む、と店の人に小銭を差し出した
押しのけられた小十郎はやりとりを不思議そうな目で見ながらも初めてのことだからか、松永の袖を離せずにいる
割り箸が顔を出して無地のビニール袋に入れられた林檎飴を受け取ると振り向き、掴まれた袖を一瞥してから小十郎の髪型を崩さない様に優しく撫でた
「んっ!!!な…!!お前っ」
驚いた小十郎が手を払うと二、三歩下がる
後ろを歩いていたカップルにぶつかり、慌ててすまないと呟いた
「くくっ、顔が赤いぞ右目」
手を口元に持って行き楽しそうに笑う
「っ、誰のせいだと…!!!」
振り下ろされていた小十郎を軽く受け流すと人混みに向けて歩き出す松永
「いらないのか?悪い子には褒美はやらんよ」
なるべく人が居ないところを縫う様に歩く松永を見て小十郎は荷物が重く感じた
ふくれっ面であろう小十郎を想像する
日頃は気高く、己にも厳しく、甘えなどの片鱗も見せないが今日は特別だったのだろう
小十郎は子供時代親に甘えられなかったらしく、当然あの我慢強い性格上、祭りという物も初めてだろうなと勝手に推測した松永
確か甘い物は苦手だったが林檎飴は丁度良い甘さ、なぜなら
甘さは酸っぱさと中和します
(良いか右目、これは舐める物だ)
(馬鹿にしてるのか?)
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時間が掛かった割にこれか/(^o^)\
ちなみに松永さんは買い物の時荷物を持たない主義です
三好達に押しつけて先に家まで持って行く様に言ってます
小十郎は申し訳ないのと自分のことは自分でする性格なので荷物は自分で持ちます