novel
□前代未聞を成し遂げよう
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儚いほど短い実りの秋が終わりを迎え、動物たちが息を潜める冬がやってきた
人とは移り気で、火鉢にあたって冷えるだのなんだの言っていたのにもう命が芽吹く春を楽しみにしている
「…松永、てめぇ何してやがる」
外気から遮断するように掛けた布団は剥がされて、いくら寝間着を着ているとはいえ晒されている体が寒い
だが布団を手繰り寄せることは叶わない
何故なら先程言葉を発した男とは別に彼に覆い被さるようにしている男が一人
「卿は知っているかね」
卿、と呼ばれた男は顔に伸びてきた手を払おうとするが手は予想外に臍の下あたりをつつ、と撫で
布越しとはいえ思わず体が反応する
それを見てクク、と喉で笑うと続ける
「胎内の赤子は懐妊してから四月経つと外の音が聞けるらしい」
らしい、と言うところから確かな情報かは不明、と受け取れた
そうとなればこの博識な男は知を欲す
「お前がいくら衆道とはいえ、男は子を孕めねぇ」
男女でそれにあたる行為を男は何度も強制的にさせられている
抗う術が無いのだ
またか、とこれからされる行為を見越して嘲笑を浮かべる
蔑んだ目で見ても松永の表情は変わらない
代わりに指の動きを止め、そこに唇をつける
「何、私とて理解している」
いつもより一層低く、暗闇を通るような声
振動が下腹から伝わり、むぅと声が漏れる
「卿は私との子が欲しいかね」
こいつは人の話を聞いていたのか、と反論する間もなく声が注ぎ愛撫でもされているかのよう、口から漏れるのは嬌声にも似ている
「声だけで孕む、と言うことを証明しようじゃないか」
前代未聞を成し遂げよう
(嗚呼そうだ、こいつは博識なんかではない)
(ただの頭のイカレた破天荒なやつだ)
10/01/23/C