novel

□腐す
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野菜に厳しさという恩恵を与えた冬は過ぎ去り、雪は溶け川へと流れる

奥州は待ちわびていた人たちで賑わっていた


奥州筆頭伊達政宗の腹心、片倉小十郎もその中に含まれている

冬を持ち堪えた野菜は甘みが増し、春を感じさせるものがある

だからこそ、この時期の収穫は他とは違う特別なものであった

背負っていた籠を下ろし見渡せば朝露で輝かんばかりの野菜達、料理好きの主の顔が浮かぶ

逸る気持ちを抑えつつ、畑に足を踏み込む
雨が降った後のような土が湿った臭い、わらじごしの抜かるんだ感触

今朝は霜が降りていたらしい


食べ頃であるものだけを収穫しよう、自分でも料理をするが主の作ったものはまた格別に旨い

収穫は他の家臣達にも振る舞うため楽しみにしている輩は多いのである


「これまた精が出るな」

聞こえた声は頬がゆるんでいた小十郎を引き戻すのに十分すぎた


なるべくなら勘違いであって欲しいと声のする方へ振り向くが視界に入ったのは予想していた人物


「はるばる会いに来たというのに、歓迎すべきではないか?」


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