珊瑚色の絵本
□第1話 始まり
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風が吹いた。
その風は私の長い髪を舞い上げた。
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「コーラル!どこに行ったの!」
そんな声が家の中から聞こえてくる。
けれど、私はその場から動こうとは思わなかった。
「コーラル、呼ばれてるぞ」
「いいんですよ、お父様。お母様は心配性なだけですから」
私は自分の独特な色素を持った髪を押さえながら笑う。
「さてと、それじゃ、行きましょうか」
「母さんには言わなくていいのか?」
「お母様には一応言ってありますし、それにお父様がどうにかしてくれるのでしょう?」
その言葉にお父様は「まあな…」と呟く。
「ですから、行きます」
そう言って私は庭の芝生の上に置いてあったショルダーバッグを手に取る。
「寂しくなったら帰ってくるんだぞ?」
「どこの親バカなんですか」
そう言いながら私は苦笑する。
ああ、でも親バカなのはお母様もでしたね。
「それでも、私は世界を見てみたい」
その声は私にしか聞こえない。
そんな程度の声の大きさだったから。
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