Let's!!

□半径85センチの鳥カゴ
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人が腕を広げると、だいたいその人の身長と等しくなるらしい。
そして、人の手が届くのは半径85センチくらいまでらしい。

「寂しいことだよね」

隣の席で、志奈子がぽつり呟く。だけどその言葉の意味が、俺にはよく解らなくて。何も言わずに見つめていると、志奈子はクスリと笑った。

「変な顔」

おいこら志奈子。それは人の顔見て笑って言うセリフか。

「変じゃない。で? 何が寂しいんだよ」
「んー……ほら、人って手を広げても、85センチくらいまでしか届かないんでしょ? それって寂しいな、って」

志奈子はそう言って、目を伏せた。
説明させといてなんだが、俺にはやっぱりよく意味が解らなかった。だって、85センチも届くなら十分だ。何を寂しがる必要がある?

「86センチ先にイたら、手が届かなくなっちゃうでしょ」

精一杯手を伸ばしても、掴めないものがあるのだと、痛感する。そんなことをぽつりぽつりと話す志奈子は、まるでその『86センチ先にイるもの』に手が届かなかったことがあるみたいに悲しそう。
まあ、俺には関係ないことだけど。
ふーんと適当に相槌を打って、視線を外す。するとそこには放課後の教室が。文字が消された黒板も、きれいに並べられた机も、掃除用具箱も掲示板もみんな、オレンジに染まった部屋。
志奈子はふいに立ち上がると、机を2つ挟んで、俺と向かい合って立った。そして、手を伸ばす。

「ほら。届かなくなった」

空を掴む手は、俺の体に届くことはない。どれだけ伸ばしたって、人は机2個分の隙間を越えられない。
だけど。
俺も立ち上がり、志奈子に近づき。まるい頬をむに、とつまんだ。

「動けば届くだろ」

どんなに遠い距離も、互いに近寄れば。絶対に届くことのない距離など、ないように思う。
志奈子は頬が伸びて歪んだ顔のまま、にこりと笑った。














半径6300キロのカゴ


(どんなに離れていても)
(届かぬ距離はないでしょう)



fin.



ダブルラリアットという曲を聴いていて、なんとなく頭に浮かんだモノ。
6300キロは地球の半径らしいです(by姉情報)


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