Let's!!
□It was a rainy day
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It was a rainy day
外は雨。今日はバレンタインデーの翌日。私のカバンには、折り畳み傘の代わりにたくさんのチョコレートが詰まっていた。
(なっちゃん、エリカ、志奈子、志保里、出にこころん……)
ピンクや赤のラッピングに包まれた、友チョコの奥。飾り気のないココアクッキーが閉じ込められていた。
渡せなかったチョコレート。
天才、気が強い、美人、腕力。よくも悪くも「女王」と呼ばれる私は、実際はそんなに強い人間じゃない。渡せないバレンタインチョコを、逃げて捨てようとした。
だけど今日は都合悪く雨で、雨具をもたない私は昇降口で立ち往生していた。
(サイアク…)
そう、ため息を吐いたときだった。
「あれ? 妃じゃん」
「!? せ、芹沢!!」
声のした方を振り返れば、うちのクラスで1番阿呆の芹沢彰がいた。踵を踏まれたシューズを踵を踏まれたスニーカーに代えるそいつの手には、黒の傘。
「なに。もしかして、傘がなくて帰れなくなったとか?」
「なっ………そ、そんなんじゃないわよ! 馬鹿で阿呆なあんたと一緒にしないでよね!!」
「いや、俺は傘あるし」
(事実だけど)ふざけたことをほざく芹沢に蹴りを入れる。そのはずみに、開いたままのカバンからいくつかのチョコが零れ落ちた。それに、目ざとく反応する阿呆。
「お、チョコ? 俺にくれるの? やりぃ」
「違うわよ!」
芹沢の手からチョコを奪い、奥深くにしまう。ついでに傘も取り上げ、勝手に開いた。
(飾り気がない………)
曇天色の傘は、チャラい芹沢からは想像もつかない。地味なそれを差して雨の中へ踏み出すと、芹沢が私を呼ぶ声がした。
でも、無視して歩き続ける。校門付近まで来ると、芹沢が慌てて私を追いかけてきた。エナメルの重そうなバッグを雨避けにしながら。
「ったく。妃って本当、しょうがない女王様だよなぁ」
嘆息しながら横に並ぶ芹沢は、けれど傘を奪い返そうとはしない。何だろう。何で、こんなに優しいんだろう。キモい。
エナメルバッグを頭に乗せたまま黙って歩く芹沢の肩を、落ちる雨は容赦なく濡らす。寒い2月に、その姿はあまりに寒そうだった。
飾り気のない傘。冷たい空。キラキラかわいいチョコの中で、私のクッキーは素っ気なく黙っている。私を守ってくれる傘と、同じ──…
「……あのさ、芹沢」
「ん?」
「これ、あげるっ」
ココアクッキーを大きな手に押し付け、水溜まりも気にせず走る。泥水が跳ねて靴下が汚れた気がするけど、今は振り向くなんて絶対にムリ。だってこんな寒いのに、私の顔は真っ赤で熱くて。
「妃っ」
ああ、私の目おかしいのかも。だって、
「ありがとな!」
あのクッキーは、あいつの手には無いはずのモノなのに。
あいつが王子様なら
(冷たいチョコが)
(あんなにキラキラしてる)
fin.
なんとか2/15に間に合いましたι
本当は昨日にupしたかったんですけど、間に合わなかったので微妙に文章改ざん(笑)
初めて主人公の名前が2人とも出た気がします←
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