死人に捧げる花の名は

□死人花  −2−
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霊力の爆発を感じた。この霊力は覚えがある。
アイツが何をしようとしているのかも検討は当についていた。
あの忠告をすれば来る可能性のほうが高いと思っていた。
否、言っても言わなくてもアイツはここの来る運命なのだろう。
 目の前に並べられたカードもそう示している。

「さて…どぉしたもんか…」

 やってくる邪魔者達をどう追い払おうかと悩んでいれば、足音が近づく。
幽霊しかいないこの別荘で足音がするということは、自分の式神である可能性が高い。
そしてヤケにテンポがいいこの足音に聞き覚えもある。

「ミーオたん!」
「呼んでない。帰れ」
「ひっどぉーい。俺様常に主のことを一番に考えてるのにそれひどくない?俺様のガラスのハートに大ダメージなんだけど…」
「心臓に毛が生えていそうなくらい図太いくせに…」
「…………いつになく機嫌悪くない?」
「別に。で?何の用?」
「あそこで台風起こしてる奴等……どれくらいの比率で殺していい?」

 無邪気な質問。悪意などは一切ない。
ただ純粋に主の邪魔をする者を排除する為の許可を仰いでいるだけだ。
男の質問にしばらく考えてから、澪は二人の名前を呼んだ。

「翡翠。邑挟」
「お呼びですか。澪様」
「………」
「邑挟。無理しなくていい。皆にわかるように伝言板で会話して」
『わかりました』

 褐色の肌に長身の逞しい体躯。短く刈り込まれた黄色い髪が印象的な男…邑挟。
ダークブラウンの髪に若草色のシャツと短パンとロングブーツ。その豊な胸のせいかシャツは少々小さく見えて、へそがみえるくらいの長さの女性…翡翠。
邑挟は喋る事ができない。理由は昔いろいろあったのだが、今は関係ないことだ。
伝言板の他に特殊な念を使って会話できるのだが、この念は感応能力に優れている者か波長があった者しか聞き取れない為、伝言板を多用することにしている。
 澪はそんな邑挟の念を感じ取れる数少ない人間の一人だ。

「お前等三人で奴等の足止めを頼める?」
「えぇ――!必要ないって!あの程度の力…まぁ。まだまだ発展途上っぽいのが一人いるけど…それ以外は雑魚じゃん!俺様一人で全然大丈夫だって!」
「お前のストッパー役」
「……ストッパーって…」
「神威。翡翠。邑挟。三分の一殺しまで許可する」
「それは生きていることが絶対条件ですか?」
「もう来たくないってくらい痛めつけてから帰らせろ」
「承知しました」
『御衣』
「えぇ――!やだやだやだ!俺様一人で行きたいぃ!」

 わがままを言った…赤髪にアイヌ風の衣装を纏った男…神威の口の中に蜂蜜色の拳銃が入る。
あまりにも一瞬の事で開いた口を閉じるのは難しい。
片手にもう一丁持っているので、これ以上何か言えば撃たれそうだ。

「澪様。やっぱコイツ殺してから行きます」
「ひ、ひや!ほまえ、ほれ…まへまへはははん。(い、いや!お前、それ前々からじゃん)」
「はいはい。そんなんでも一応最強だから殺すな」
「わかりました。澪様がそう言うなら…命拾いしたな。バカムイ」
「その言葉そのまま返すよ。スイちゃん」

 翡翠のちょうど後ろに丸三角形の大太刀が包帯から顔を覗かせ、翡翠の首に突きつけられていた。
翡翠は大きく舌打ちすると銃を降ろし、ホルスターにしまう。
それを確認した神威も大太刀を翡翠の首から退けた。
その間に邑挟は何かを書き込み澪に提示した。

『二人は仲良し?』
「あぁ。仲良し。仲良し」
「「違います!!」」
「ユーウちゃん!ちょっと待って。よぉく考えてみよう?刃物と拳銃突きつけあうような奴等が本当に仲良しに見えると思う?もう一度良く考えよう?」
「そうだぞ。邑挟。だぁれがこんなボサボサ頭のニワトリと仲良しにならねばならんのだ」
『だって二人とも息ピッタリ』
「「なりゆきだ」」
「はいはい。漫才はそのくらいにして…行って来ていいよ。手加減はするように」

 神威は不満そうだが、これ以上騒ぎを大きくしても始まらないと悟ったのだろう。
大人しく窓から出て行き、結界の外へと抜けた。
翡翠は溜め息をつきながら邑挟とその場で消える。
三人がいなくなったことを確認して、澪も立ち上がった。

「さて…そろそろ仕事をしようか。ツッキー」
「はい。ご主人様」
「準備はできてる?」
「はい。月の用意は万全でございます」
「そう。仕事が速くて助かる。では…始めよう」
「はい。ご主人様」

 どこからともなく現われたメイド…名を『月夜讀子』通称ツッキーが深くお辞儀をして、扉から出て行く。
 この狂った夜会を終わらす為に……魔女の宴が始まる。
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