小さな食堂(短編)

□澪 行き倒れた天狗を見つける話
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 トントントントントントン
 朝食の準備は着実に進んでいる。
おかげで気分がいい。朝から魔弾を食らわなかったのがやっぱり良かった。
 だが、ココで一つ問題が発生した。
かまどの火が弱くなってきたのでもう一〜二本薪を足したかったのだが、もう薪はない。
取りに行くのは勝手口を出て、アノ死体もどきの前を通らなければならない。
 あまり面倒を起こしたくないと思ったが、ご飯が満足に炊けなければそれこそ死活問題だ。
 目の前の面倒事とこの先のデットオアアライブ。
澪は迷わず目の前の面倒事を取った。
 なるべく早足で薪が積んであることろまで行き、両手に薪を持って台所に戻る。
それまで目覚めるな。そのまま死んでいろ。
澪は真剣に願いながら、死体もどきの前を通り過ぎようとした。その時。

ガシッ!

 力強く足首を握られる。
あまりにも強かったので、少しだけ表情が苦痛に歪む。
目線を下げれば、やはり死体もどきが足首を掴んでいた。
なんて面倒なと思いながらも、最初は平和的交渉から入る事にした。

「あの。手を離していただけません?」
「嫌…だ…離せば…貴様…俺を…徹底的にスルー…するだろ…」
「チッ」
「おい…今…舌打ち…」

 死体もどきの台詞は途中で切れた。
それもそのはず。
澪は魔法陣を組んで真下にいる男に向かって魔弾を撃ったからだ。
 死なない程度に手加減できていたはずなので顔が地面にクレーターをつくるくらいに沈めてやった。
そうすれば物言わぬ物体Aの完成だ。

「どうかした?」
「いえ。…師匠。いいタイミングで起きましたね」
「まぁ…アタシの屋敷内でアンタが魔法をぶっ放したからちょっと何だろうと思ったのよ。で?それ何?」
「師匠が帰ってきたときに勝手口に落ちてましたよ。師匠の知り合いでは?」
「いや。アタシに天狗の友達はいないわよ」
「あぁ。これ天狗だったんだ」
「それよりご飯まだぁ?」
「もうできますよ」

 そう言って二度目の放置。
この師弟はトコトンこの物体Aを無視する事を決め込んだらしい…。
台所で完成したシャケが香ばしい匂いを漂わせた。
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