小さな食堂(短編)

□澪 行き倒れた天狗を見つける話
5ページ/8ページ

 それからさっさと諦めてくれれば楽だったのにと、澪は心から思う。
今日の朝は、基本理念などを覚える講義から始まった。
青空教室といっていいほど外で立ったままやる授業だが、しばらく説明されたら問答無用で実技に入る。
 ちなみにその際は手加減なんて一切されない。向かってくる攻撃は避けなければ死ぬだけだ。
そこで死んだならばそこまでの人間だったというだけで師匠の記憶に2日と残りはしない。
 なので、この人と一緒に暮らして二年。まず最初に身につけたのは危機感とどうすれば相手の攻撃を避けることが出来るかという一念である。
 最低限の動きで攻撃を避けて、相手の動きを分析。
師匠の域まで達すれば避け続ければ相手が次にどう攻撃してくるか、どの位置に攻撃を当ててくるかまで分かるようになるという。
時々、師匠は化け物なのではないかと思ってしまう時はあるが、化け物はこんなに綺麗な女性ではないと思うのでこの考えは早々に消した。

「今日は魔女の称号の話をしましょうか?」
「はい」
「魔女の称号は自分で独自の魔法陣を構築して自分にしか使えない魔法を生み出した者に送られるものなの」
「師匠は『祈願』の魔女ですよね」
「そう。私の魔法は真剣に祈っている者の願いを対価を払わせる事でかなえる事が出来るの。だぁからちょっと面倒なのに付きまとわれたりしたりもするけど…」

 祈りを捧げる者の願いを対価と引き換えに叶わせる。
全ては魔女の気まぐれで起こせる奇跡の魔法。
その審査は厳しい。
まず、師匠に気に入られなければならないし、師匠に魔法を使わせる気になるような祈りではければ聞く気も持たない。
さらに言うなら願いに釣り合った対価を用意できなければ、最悪本当に命を取りに来る。
 現に澪もその口である。
本当に命をとられかけて咄嗟に口に出したのが『労働力』だったおかげで今も生きていられるのだから。

「ということは!私が祈れば呉羽殿は願いを叶えてくれるのですか!?」

 ピキッ。
空気が凍った。
凍らせたバカは、この空気に気付いていないのか跪いて目を輝かせている。
 空気が読めないバカかと澪は一人で納得、完結してから戦闘態勢に入った。
いつでも攻撃がよけられるようにという配慮だ。

「何で…貴様の願いを叶えなくちゃいけないわけ?」
「それはアナタと私の幸せの為に…」
「誰と誰の幸せ?」
「私と呉羽殿の…」

 その瞬間。天狗の首根っこを引っ掴み、思いっきり澪に向かって投げてきた。
澪はそれを無駄が一切ない動きで避ける。
さらに追い討ちをかけるように瞬きをするくらいの速さでもう魔法陣をくみ上げていた。

「いっぺん死んで来い!!」

 そう言って放たれた黄金のナイフは一発も逸らす事無く天狗の方に飛んでいく。
澪はそのナイフをやはり無駄がない動きで避けて、後ろの天狗は必死に逃げている。
 そのまま敷地内から姿を消した天狗を無視して、澪は無傷のまま立ち上がる。

よし。今日も全部避けれた。

 清清しい達成感だけが澪の中に芽生えた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ