小さな食堂(短編)

□澪 行き倒れた天狗を見つける話
7ページ/8ページ

 ドタドタドタドタ!バンッ!
大きな足音を立てて、澪は師匠と疾風がいる部屋の障子を乱暴に開けた。
 そして、何も言わずに疾風の服を引っ掴んでから先程の師匠と同じ要領で外に放り投げ、調度いい高さに落ちてきたところで、小柄な身体から想像つかないくらいの力で蹴り飛ばした。
 3バウンドくらいした天狗はその場ノックダウンされるが、それだけでは飽き足らず、澪は疾風の頭を踏みつけていた。

「師匠!縄ください!縄!絶対に千切れないような強力な奴!」
「どうしたのいきなり?さっきの来客は?」
「俺の部屋で休ませてます。三日三晩働き通して、ついに過労で倒れました」
「あらま。何でそんなことに……」
「このアホのせいです。とりあえず縄ください」
「わかったわ。縄じゃなくて鎖の方がいいわよ。絶対」

 どこからか金色の細身の鎖を召喚する。鎖はまるで蛇のように動き疾風に身動きが取れないようにグルグルに巻きついた。
 先程来た来客、天狗の五十鈴は疾風が不在の間警備隊の全てのことを切り盛りしていたのだ。
だが、自分では荒れくれ者達である警備隊の者を纏めるのは至難の業で、問題を起こした隊員のために平謝りしてきたり、デスクワークに追われたり……とにかく不在だった三日の間の激務で、彼の胃はボコボコに穴が開いていた。
 全てを話し終えた後、スッキリしたのか力が抜けて先程過労で倒れたばかりである。
 同じ下働き(?)の身としてそんな自分勝手な理由で大事な街の治安と隊長思いの部下をこんなになるまで酷使した疾風に怒りを感じ、この所業に及んだのである。

「師匠。こいつホントどうしましょう。五十鈴さんのために生きては返しますが怒りが収まりません」
「そうね。街の治安を護るのがそいつの役目なのに役目を放棄してアタシのところに来るなんて…何ていい度胸してるのかしら……澪」
「はい」
「こいつ氷室に放り込んできなさい。氷結の魔法かけてるから軽く凍るだろうけど…大丈夫。天狗は丈夫だから死なないわ」
「イエス、マム!」

 カッコよく敬礼を決めてから、ずるずると疾風を引き摺り、地下に作られた氷室の中に乱暴に放り込んだ。
 その衝撃で目覚めた疾風が何か言ったような気がするが、澪には何も聞こえなかった。



 それから五十鈴の疲労が癒えるまで澪は甲斐甲斐しく五十鈴の世話をした。
隊長はどうしましたか?とよく聞かれたが街に帰ってちゃんと仕事をしているよ。と安心させるように言った。
 実際は未だに氷室の中にいると思うのだが、西の街の警護には師匠がそっくりに作った『人形』が立派に役目を果たしているだろう。
 帰る頃にはもう彼のポジションはないのではないかと思うほど人形は立派に役目を果たしている……。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ