死人に捧げる花の名は

□死人花  −2−
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 見上げれば月が昇る。満天の星空。夏の蒸し暑い空気。
草木が風で揺れる音がする。静まり返った森の中。
時折撫でる風が気持ちいい…ここはどこだろう?

「昌樹!?」
「も…くん…ここ…俺どうなって…」
「お前が、風神を召喚してくれたおかげで助かった。細かい操作までは気が回らなかったようだがそこは白虎が担当した。私達は全員無事だ」
「そっか…俺…かなりの高さから落ちてたんだっけ……」

 だんだん思い出してきた。
自分達は謎の男の襲撃にあい、地面に叩き落されそうになったのだ。
咄嗟に風神を召喚して風を集めたまでは覚えている細かい操作は白虎がやって、なんとか地面との正面衝突を避けられたのだろう。
一端志を持って諦めなければいくらでも方法はある。
浩明の力強い言霊に命を救われた。そんな気がした。
最もそんなことを言えばバカらしいと彼は言うのだろう。

「進もう。みんな」
「昌樹…?」
「まだ終わってない…何も解決してない。俺はまだまだ頼り無いかもしれないけど…もう諦めない。そう決めたから」
「昌樹」

 物の怪は遠くをみりうその背中に千年前の一人の少年を見出した。
 あの頃と似た…いや少し大きくなったような背中に彼の成長を見た。
生まれ変わっても昌樹の魂の本質はやはり『昌浩』なのだ。
 勾陣も陸増も白虎も一回り大きくなった背中を見て同じ事を思った。
なにはともあれ、結界がある場所はかはそう遠くはない。
昌樹は気を引き締めて、再び前に進んだ。

 大型の結界の目の前とはいかなくとも、かなり近いところに落ちた為森の道なき道を進んで、何とかた辿り着いた。
が、近くでみる迫力に昌樹は驚きを隠せなかった。
上空から見た時はそんなに迫力を感じなかったが、黄色の膜がキッチリと道を塞いでおり、それがグルリと円形で覆われている。
本当に東京ドームを見ている気分になる。
空からみればそこまで大きくないように見えた金色の輪も近くでみると結界には及ばないがそれなりの大きさにはなった。

「かなり強力で大規模なものだな…いっそ見事と表現した方がいい」
「太裳や天空でもこれほどの結界を作れるかどうか難しいだろう。結界にムラがない」
「お前等…暢気すぎだろう。勾陣。白虎」

 物の怪が呆れた様子で素直に感心している二人を見る。
結界は実に見事なものだった。どこをどう触っても同じように弾かれる。
昌樹は、二人の言葉に疑問を覚えて聞いてみた。

「ムラって…やっぱり結界でも分厚かったり薄かったりするって事?」
「あぁ。均等の強さの結界を広範囲に作ることは難しいと太裳から聞いた事がある。どうしても自分の神気が及ばないところがやはり出てくるからな」
「へぇ…ってことは…あの輪が拡散の役割っていうか分厚さを均等にするための役割を果たしてるって事かな?」
「せいっかーい!よぉくわかったなぁ!」
「えへへ。ありがと」
「感心してる場合か。昌樹」
「もっくん。細かい事を気にしていると青龍みたいな皺オバケになっちゃうぞ」

 物の怪は昌樹の言葉に真面目に青龍のようになった自分を想像した。
皺が濃くなりやがて取れなくなった自分を姿を思い浮かべた物の怪は慌てて首を左右に振る。
あんな姿にはなりたくなかったのだろう。
必死で首を振っている間に昌樹の後ろを影が包んだ。
 昌樹の身体が勾陣に引っ張られ、みんなが散開したのと今まで立っていた場所から突然爆発のようなものが起きたのはほぼ同時。

「な、何?アレ…?」

 いつの間にか後ろに現われたのは巨大な土や岩が合わさって出来た巨人だ。
顔の部分が360度グルリと周り、他のところもところどころ回る。
ゲームで見たことがあるゴーレムに似ていた。
土で出来た木偶人形。主の命令にだけ従う戦闘巨兵。

「だぁーい正解な君にはもれなくあの世へ片道切符をプレゼンツ!」
「行ったら二度と戻って来れないがな」
「だから片道切符なのよん。スイちゃん」
「き、貴様はさっきの!?」

 夕暮れのような赤い髪を高いところで一つに括っているがくくられた髪は獅子舞の毛のようにぼさぼさだ。
アイヌのような衣装を纏い、背中に丸三角の板を背負った男。
先程、昌樹達をデットオアアライブの危機に晒してくれた奴だった。
 その隣には緑のシャツに短パン。ロングブーツを身に纏い、腰には蜂蜜色の拳銃が二丁入ったホルスターが左右を埋めている。頭にはカウボーイハットの女。
 さらにゴーレムの足元から長身で褐色の体躯を持つ黄色い髪を短髪にした青年。
それぞれが纏う神気は複雑なものだ。
神気というにはあまりにも禍々しく、妖気と言うには神々しい。
魔と神という絶対に合わさる事のない力が合わさったような気に神将達は身構えた。
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