死人に捧げる花の名は

□死人花  −2−
3ページ/11ページ

「おっひさぁ!十二神将の皆々様方と安倍家の末っ子様」
「どういうつもり…俺達をあんなところで落として…お前達は何者…澪は?」

 勾陣に支えられながらもゴーレムの周りに集まる三人に昌樹は問いかけた。
いくらドジで間抜けでといわれても、この三人の異常さは充分にわかっている。
だが、問いかけずにはいられなかった。彼等が澪に危害を加えるかもしれない。
そう思ったら問いかけずにはいられなかった。

「澪はこの中にいるの?まさか…お前達が澪をここに閉じ込めて」

ガウン!ガウン!ガウン!

 とても大きな発砲音が響いた。
それらは全て昌樹の足元に命中しており、つま先に当たるか当たらないかのギリギリのところを狙っていた。
昌樹は慌てて、距離を取り撃った女を見た。
女の顔は怒りに歪み、目には怒りの炎が見えた気がした。

「我等が主を侮辱することと我等『摩訶八将』を侮辱する発言は止めろ。ガキ」
「あ…主?それって澪の…」
「下等な人間風情が…我等の主を呼び捨てにするな!馴れ馴れしい!澪様と呼べ!!」
「ちょっとちょっとスイちゃん。怒りすぎ。抑えて抑えて」
「これが怒らずにいられるか!!」

 何をそんなに激怒しているのかよくわからないが、澪は様付けにしないと彼女の気に障るようだ。
男と青年がなんとか女を宥めているようだが、男はさらりと言った。

「別に澪たんはスイちゃんに様付け強制してないじゃん。何で名前で呼ばないの」
「主に対してしっかりとした敬意を払い、敬うのは当然の事!っていうか貴様…なぁに主のことをふざけた呼び方してんだ。あぁ?」
「ちょっ!危ないって!銃向けるな!」
「うっさい!一遍死んで来い!」

 味方同士でゴーレムの上で戦闘を始めそうな勢いの二人。
ひょっとしなくても仲が悪いのは十分にわかった。
真ん中に仲裁に入るようにいる青年が伝言板片手に困っている。
『喧嘩ダメ』と書かれた伝言板を見せてながら二人の間に入り止めていた。
 どうやら喋れないのか、喋ろうとしたくないのか。
伝言板でコミュニケーションを取っているようだ。

「あ、あの!そこの茶色いお兄さん!」
『何?』
「お兄さん達は何しに来たの?」
『お前達を三分の一殺しにしに来た』
「はい?」
「昌樹!避けろ!」

 すでに本性になった紅蓮の声に反応して、昌樹は横に飛び退いた。
昌樹が立っていた場所にはゴーレムの腕が振り下ろされていた。
アレに当たれば人間でなくてもひとたまりもないだろう。
ゴーレムの上で暴れている二人はようやく納まったのか昌樹達に向き直った。
青年もそれに安心したのかふぅと溜め息をついた。

「というわけで!まずは平和的交渉から行こうか?さっさと帰ってくれる?」
「嫌だ!」

 昌樹はしっかりと言った。
その言葉を聞いた男は、背中に背負う大太刀に手を伸ばそうとする。
彼の答えがそれだというのなら、排除するのが自分達の役目。
生かす事を絶対条件として任務を遂行する。
 だが、それを止めたのは隣にいた女の式神。
左手を男の前に出して、静止を呼びかけた。

「貴様は、何の為にここに来た?」
「お…俺は…」
「澪様はご無事だ。澪様は我等の主であり、この結界も澪様のご指示だ。それで?貴様は何をしに?何の為にここへ来た?」
「何が目的だ」
「自分が何故今、ここに、この瞬間に存在しているのかもわからん輩に興味はない。生かす価値もない。いくら主の命で三分の一殺しにしろと言われていても…そんなハッキリしない輩は死んでしまえばいいと思っている」

 これは一種の試練にも近い行為だということを二人は知っていた。
中途半端な気持ちで会ったならば、主はその者を護らなければならなくなる。
行くならばそれ相応の覚悟と実力を伴う者でなければ会わせる気はない。

「俺は…そこの男に空から落とされた時。思い出したんだ」

 昌樹はポツリと喋りだした。
何ともいえぬ緊迫した空気が流れる。

「俺は十二神将が誇れるくらいの主に…最高の陰陽師になるんだって。だから…澪が何をしようとしているか…頭の悪い俺にはわからない…」
「だろうな。貴様のような下等な人間にわかるわけもない」
「アハハハ……でも、俺は自分からここに来る事を望んだ。ここにいる霊を全て帰るべき場所に送る。じゃないと…彼等は囚われたままだから!」

「俺は…安倍昌樹は、一人の陰陽師としてこの別荘で囚われている人を解放する!」

 まだつたないがとても強くハッキリとした意思が感じ取れる言霊。
女はそれに満足したのか、静止の手を下ろし、ホルスターの拳銃に手を伸ばした。
男も布を取り漆黒の刃を月夜に輝かせる。
そして、長身の青年はゴーレムの片隅に降りて指揮棒のようなものを取り出した。

「その言葉。しかと受け止めた。私は摩訶八将が一人。『憤怒』と『正義』を司る者。名は翡翠!とりあえずは生かして貴様等を帰す!」
「では。陰陽師の安倍昌樹君とその式神 十二神将諸君。自己紹介は遅れちまったが…摩訶八将が一人『傲慢』と『信頼』を司る魔神。神威様だ。以後ヨロシク!」
『摩訶八将が一人。『暴食』と『忍耐』を司る。名は邑挟。そしてゴーレムのカリム』
「これが最初で最後の挨拶にならないように、頑張ってくれよ!」

 昌樹の前に紅蓮が立ち、昌樹も札を構える。
他の神将達も武器を取り、戦闘が始まった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ