死人に捧げる花の名は

□死人花  −5−
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 積み重ねた屍の上で次の敵を待っていた神威は、ふいによく見知った気が途切れるのを感じた。
いつもは自分に銃を撃ってくる元気な奴がまさかと思い、何度も確かめたがやはり気は感じられない。
 何かあった。そう確信した神威はすぐさま春寝に連絡を取った。

「ハルちゃん。スイちゃんは?さっきから気を感じない」
≪ザァ―――……ザ…ザァ――――≫

 通信する為の石からはひどいノイズしか聞こえてこない。
春寝の神気が届かない場所に移動した覚えはない。この場合こんなにノイズがひどい原因は三つほど挙げられる。
一つは、春寝の職務怠慢。しかし、今は澪から発せられた戦闘命令だ。いくら怠情を司る春寝も仕事はしっかりする。
二つ目は、近くにとても強い妖怪。もしくは邪気の固まりがいる場合。
邪気が春寝の神気を邪魔して通信を途切れさせている可能性がある。
三つ目は…春寝が何らかの理由で連絡できない状況に陥っている場合。
これは一番ありえないのだが万が一ということがある。
 あの烏合の衆の中にそれほどの腕を持つものがいるとは思わないが用心に越した事はない。
一度戻るべきかと思えば、奥からズル…ズル…と何かがこちらに向かってくるのを感じた。
 現われたのはドロドロの大きなスライムのような化け物。
いや、姿形をもっとわかりやすく表現するのなら空を飛ぶ少女が出てくる某名作アニメに登場する熔けかかった巨人兵に似ている。

「何アレ…キモッ!超グロテスク!すんげぇ触りたくない!!」

 一人で言っても仕方ないのだが、先程まで一緒にいた紅蓮は早々にココを引き上げて昌樹のところに行ったので、どうしても独り言になってしまう。
 目の前に現われたドロ状のスライムを前に、神威はこいつをどうするか考えていた。
自分の能力はきっとこれには無力だろう。相手の属性は土。火を使役する自分には分が悪い。
そこまで考えてふと気付いた。
時間稼ぎをされている。自分をココに足止めして、澪に近寄らせないつもりか。
となると敵の狙いは澪。そして狙っている敵の中でここまでの事をやってのけられる奴といえば神威は一人しか思いつかなかった。

「澪たんは気付いてたんだろうけど……やっぱ水臭いなぁ。言ってくれりゃいいのにさぁ。まぁ…俺様たちのことをそれだけ考えてくれてるって事なんだろう。多分」
「グォォォォォ……」
「わかるか?この澪たんの素直じゃないツンデレ心。いや、お前みたいな単細胞生物にはわかるまい。口とか行動では俺様のことものすごーくぞんざいに扱うけども時折見せるデレが俺様の心を癒してくれるあの瞬間!」
「グオォォォォ」
「まぁ…というわけで。澪たんが大変なことになりそうだから俺様はさっさとこの場を去りたいわけだ。つぅわけだから…………死んでくれる?」

 流線型の太刀の切っ先をスライムの妖に向ける。
その切っ先から黒い塊が渦を巻き、どんどん大きくなっていく。
漆黒の球体がバレーボールほどの大きさになった時、神威はその球体をスライムの妖の上に移動さえた。

「なぁ。お前。俺の能力って知ってる?俺の能力は『重力』(グラビティ)。重力っていうのは押しつぶすだけじゃない。
一箇所に集めてやれば簡易版ブラックホールを作ることも可能なわけ。澪たんの知識の受け売りだけどね。
敵さんはそこまで科学に明るくないみたいだし……秘密だぞ?コレは」

 まるで掃除機に吸い込まれるように巨大なスライムの妖はその黒い玉に吸い込まれていった。
光さえも通らない袋小路の通路の中でスライムが生き続けられるかなど、神威は興味はない。
吸い込まれていく妖に何の感慨も覚えることなく、消えていったスライムを確認してから重力の扉を霧散させた。
 早く澪のところにいかなくては…神威はそれだけを考えてその場から離脱した。
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