死人に捧げる花の名は

□死人花  −5−
3ページ/11ページ

 安倍邸の正門では澪と昌樹の術によるラッシュが耐えなかった。
こちらに一歩も近づけることなく、両者とも術を出し続ける。
昌樹も大きな術ではなくほとんど霊力を使わない術をさらに小出しに出している状態なので、まだまだ術には出せる。
もっと凄いの澪のほうだ。先程からそれなりに魔力を使うのであろう術を時々織り交ぜて使っているのに一切息が切れることがない。
 澪は本当に尊敬すべき魔女だと昌樹は思い知った。
そして、このままでいいのかとも思った。
 澪は何か大きなものを背負っていて、それを自分には背負わせないようにしてくれている。
そんな澪に甘えてばかりはいられない。もっと強くならなければいけないのではないだろうか。
澪と友達になる為に、澪に負けないくらいの力が必要なのではないだろうか。
 護られるばかりではなく、護り護られる。背中を預けられるくらいの力が欲しい。

「頑張らなきゃ…」
「何がだ?」
「ううん。独り言」

そう言って術を放ち続けていた二人だが次第に妖怪の数も減り、残り一体となった時昌樹と澪の術が最後の一体をしとめた。
ふぅと一息つく二人だったが、澪の目線は上空を向く。
先程翡翠の気配が消えた。その前にあの結界を翡翠が攻撃したのを見た。
だがその瞬間から翡翠の気配が弱まり、消えてしまったのだ。
 春寝からの通信もなく、ノイズだけが片耳を潰すほど流れている。
どうやら先程から邪気の固まりが近くにあるせいか、春寝の通信を妨害しているようだ。

「翡翠…(様子を見てくるべきか…いや。もしも奴か侵略者共ならココをノーマークにするのは危険すぎる…どうするべきか)」
「澪…どうしたの?気分悪いの?」
「いや…ちょっと…な」

 翡翠の様子も気になるが、そちらの方は後で確かめに行けばいい。
澪は優先順位を決めて少し休もうとしたが、再び邪気を感じた。
現われたのは神威のところに現われたのと同じ。ブヨブヨとした液体状のスライム。

「何アレ…こっちに来る!」
「敵だ。クソッ!この期に及んで一番厄介そうなのを!」

 澪が魔法陣を瞬時に組み上げて魔弾(魔力をこめた魔法の弾)を打ち出す。
それが邑挟の結界で威力が倍増され、スライムの妖を直撃した。
しかしスライムの妖は魔弾を飲み込み吸収し、大きくなった。
そのことに驚いている間に、昌樹が真言を唱え終わり術を放ったが、コレも同じように飲み込まれてスライムを大きくしただけだった。
 魔力を吸収する。つまりは…魔法も陰陽術も効かない。
これではきっと神将の力すら飲み込んでしまうだろう。
だが、敵の狙いも明らかだった。

「……昌樹」
「何?澪」
「今日は正直…楽しかったよ。お前の不安な料理の手伝いしたり…一緒にスイカ食ったり…もうできないと思ってたから」
「澪?」
「どんだけ突き放しても一度懐いた犬みたいに寄ってくるお前が…実は嫌いじゃなかった。
お前みたいな奴が陰陽師になって人間と妖怪の間を正しく繋いでくれれば俺に未練はない。
……………じゃあな。昌樹。立派な陰陽師になってくれ」

 そう言って昌樹の首根っこを引っ掴むと、朱雀がいるところまで投げた。
あまりに突然のことだったが、朱雀も何とか受け止めたが、昌樹の目は真っ直ぐ澪を見ていた。
 澪が結界の外に出て行くのを見ていることしかできなかった。

「澪!?」
「来るなっ!俺はお前まで巻き込まない自信はないんだ…頼むからそこにいて…」

 澪は前へと歩き出した。昌樹を置いて。
昌樹は急いで結界の外に自分も出ようとおもったがどういうわけか出られない。
澪はスライムの妖の前で止まる。その妖をずっと前から知っていた。
またこんなものを生み出してしまったのか…邪気から漏れる人々の恨みの囁き。

暗い…痛い…辛いよ…出して…ここから出して…。

 悲しい声が聞こえる。けれども彼等をそこから出す事は澪にはできなかった。

「ゴメン…ゴメンなさい…許してなんて言わない…みんなが誰かを恨んでる分俺を恨んで…憎んでいいから…ごめんなさい!」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ